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  • #28 Kissing butterfly fish

    先の大過を唯一まぬがれた本部棟の火影の執務室には、もうカカシを待つ金の髪のあの人はいない。とうに代を譲ったはずの三代目火影が、老齢のためだけではなかろう、以前そこに座っていた時よりもずっと小さくなったように見える体を背もたれの高い椅子にぐっ…

  • #27 肉食の夜リターンズ

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  • #26 肉食の夜

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  • #25 Pressure Cooker

    目標まで1メートル50、着火より七分経過、変化無し。イルカは壁に身を隠しながらそっと目標物の様子を見守る。銀色の滑らかな胴体、がっしりとした作りの黒い取っ手、内部から響く低い唸り。期待と恐れでどきどきとイルカの胸は高鳴る。炎に炙られて内部か…

  • #24 警戒混ぜ御飯

     イルカは混ぜご飯が嫌いだ。好き嫌いのないイルカにとっては珍しい事だ。なにが嫌いって。混ざってるから。別々に食べればいいじゃないかと思う。なんでわざわざ混ぜるんだ。ご飯は白飯にかぎる!真っ白で、ほかほかつやつやと湯気を上げる白い飯。それだけ…

  • #23 塩辛い犬

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  • #22 チャパラナイト

    今日は土曜日だ。目を開けると、カカシは明け方に帰ってきてベッドに潜り込んだそのままの格好で布団にしがみついていた。任務明けでシャワーも浴びずに眠っていたから、服や髪についた砂埃がシーツの上でじゃりじゃりする。カカシの部屋は土足で出入りする仕…

  • #21 アリバイ大蒜

    「おやっさん、こいつのニンニク多めに入れちゃって」キバ君の声が聞こえた。「ちょっと、ヒナタが分かってないと思って…」「ニンニクで酒の匂い消すんだよ。日向の親父さんに酒飲んだなんてバレたら殺されるぞ」「殺されはしないだろうが、吊されるくらいは…

  • #20 オレンジフラワーウォーター

    「合コンですか?」本部棟の渡り廊下を歩いているところで声を掛けられた。声を掛けてきたのはさっきまで同じ研修授業を受けていたくのいちの先輩だ。「新しく中忍になった子の顔見せみたいなもんよ。同じ任務に就くこともあるだろうし歳の近い者同士仲良くし…

  • #19 落日の缶チューハイ

    あ。今日、俺、誕生日だった。イルカがそう気がついたのは少しばかりの残業を終え、家に帰って夕飯を食べて風呂に入り、パジャマがわりのくたくたになったTシャツを着て畳の上に新聞を広げた時だった。朝、出勤する時に新聞受けから引き抜いて台所の床に投げ…

  • #18 お疲れおにぎり

    ねえ、よくあるじゃない?寝てる時になんかエッチな気分になってどうにもなんないような気分になる時。疲れててそんな体力ねーよって感じなのに、したくてたまらなくなるんだよね。「そりゃ、疲れマラってやつじゃないのか?」違う、違う。寝ながら自分の股間…

  • #17 真夜中東坡肉

    商店街の中程の赤いビニールの庇が肉屋の目印だ。店先で腕組みをしてイルカは冷蔵ケースの中に並べられた肉の塊を睨んでいた。「豚のバラ肉一キロ」イルカの声に店主がケースから肉の塊を取り出し、上に置かれた緑色の秤に載せた。数グラムオーバーした分をお…

  • #16 ペーパーバック・キリマンジャロ

    よく晴れた午後、木の葉商店街をてくてく歩くイルカの視界に見覚えのある猫背の背中が目に入った。書店の中でポケットに手を突っ込んだまま本を物色している後姿。「カカシ先生」大股でその人物に近づきながら声を掛けると、男は首だけ振返ってイルカを見つけ…

  • #15 黒髪大吟醸

     黒髪の男というのは、どういう遺伝的素因があるのか知らないが、どことなく艶めいた印象がある。のはなんでだろう。骨格が華奢だから?別に筋骨逞しい黒髪の男がいないわけではないのだが。例えば今年カカシと同じく下忍担当になった同僚の猿飛アスマとか。…

  • #14 街道蕎麦

    向こうの席のエロ親父がウザイ。行儀悪く卓に肘を着き、焼き魚をつつきながらカカシは肺の底から空気を吐き出す。とっぷりと暮れた日に火の国の国境近くの宿場で入った飯屋で奥の卓に座った成金臭いオヤジが傍らの、どうやら商売者らしい男をべたべたと触りま…

  • #13 ひどい人焼きそば

    イルカ先生はヒドイ。何度も繰り返されて、わけが分からないがだんだん腹が立ってきた。「さっきからあなたの言うことを聞いていると、アカデミー教師は娼婦かなんかみたいですね」厭味を含ませて言ったのだが、カカシは「娼婦!」と言ったきり絶句してしまっ…

  • #12 居酒屋玉子

    「玉子焼きかあ」ぼそりと呟いた言葉に、目の前の受付に座った中忍は「え?」と黒い眼を上げて訝しそうな視線をくれた。「ああ、」そうされて口に出して呟いていた事に自分でも気がついた。上忍のくせに我ながら弛んでいる。「ナルトがね、イルカ先生の穴子の…

  • #11 再びカレー

    「どーも」戸口に立った自分を見て、イルカ先生は驚いていた。あれ?もしかして、本当に来るとは思っていなかったのだろうか。場違いな空気を感じてカカシの首が斜めになる。でも来なさいって言ったのはそっちだ。あんな真剣な眼をしたくせに。だからカカシは…

  • #10 亡者の塩

    切り裂かれた皮袋から白い細かな粒が零れ落ちる。頭上から狭い渓谷沿いの道を進む荷馬車の一隊に矢が降り注いだ。敵のチャクラを感じると同時に足元の地面から土塊が突き上げ荷車が大きく傾いだ。馬が嘶き棒立ちとなる。反対側は川だ。積荷を落とすまいと味方…

  • #9 娘道明寺

    「イルカ先生、来ました」声をかけると先生は後姿でモフモフと咳き込んだ。「ああ、サクラ」スチール椅子をくるりと回転させて振り返った片手には小さなピンク色の和菓子が握られている。人を呼び出しておいて何をしているんだ。「これな、大羽先生の差し入れ…

  • #8 居残りキャラメル

    目の前に並んだ書類の束やファイルや先生用の本とか教科書とか。高すぎる椅子に足をぶらぶらさせながら机に肘を突いて白いままの紙に目を落とす。はあ。溜息。今日の授業でやったのは呪符の作り方。何も書かれていない和紙にお手本の呪符に書かれたのと同じ文…

  • #7 中忍レトルト

      乾物屋の店先でイルカは金色の缶詰を手にとって眺めていた。最高級の猫缶、通称・金缶。イルカの胸に一つの疑念がこびりついている。カカシの家のテーブルの上に積んであった猫缶。あの時、ぽぅっと頬を赤らめて視線を逸らしたカカシの珍しい様…

  • #6 コヨーテテキーラ

    彼らの飲み会に飛び入りする羽目になったのはたまたまだった。仕事が終わって一日分の任務報告書を整理していたら火影に伝令を頼まれた。上忍待機室を覗くと探し人であるアスマ上忍はまだ残っていた。夕日紅、はたけカカシ、 他に数名の上忍達もいた。紅が良…

  • #5 上忍缶詰

    敵も味方も分からぬような混戦のさ中、カカシは左目を覆った額あてをぐいと持ち上げた。暈けたピントが急に合ったように視界がくっきりとする。乱れる人馬の動きが手に取るように分かる。自分の中の何かが加速し、それにつれて周囲の動きがスローモーションの…

  • #4 雪玉ラーメン

    校庭で一人の子供が雪玉を投げている。ぱしゃり、ぱしゃりと教室の窓ガラスに雪の玉が投げつけられて、砕けては張り付いて滑り落ちる。分厚い雪雲は遠くの山の上から里の空全体を覆いつくして外はもう真っ暗だ。教職員用の昇降口から外を覗い、イルカは白い息…

  • #3 遠足弁当

    それは毎年のことだった。寒気がほどけ、冬枯れた木々が息を吹き返す。昼が長くなり、無闇に悲しくなる冷たい夜が遠ざかる。風の冷たさに縮こめていた手足が警戒をといて伸びやかに動き出す。そんな頃にその行事は行われる。春の遠足。遠足といったって忍を養…

  • 戸棚の中

    背中がざりざりする。擦れて落ちた壁土が足下に積もっていて足の裏もざらざらする。日がな一日ぼんやりとこの部屋で過ごしている。障子越しの光の中の白や黒や灰色や、その中にある白や黒や灰色、その中にある白や黒や灰色、その無限の色調、そんなものを目で…

  • 赤い道

      「あの子をそこへ沈めて、あなたは此処へ帰っていらっしゃい」 赤い道を辿れば呪詛の歌が聞こえてくる。其処にあるのは食い散らかされた私の残骸だ。あなたは私の歌を聴き、私を見つけてくれるだろう。沈められた遠い記憶…

  • 死んで狐の皮衣

    彼らが私を愛さないのは私が彼らを嫌っているからだ。意識にはのぼらなくとも、不思議とそういう匂いは肌で分かる。私の嫌悪が彼らに感染するのだろう。私に居場所がないのは私が求めようとしないからだ。求めない者には何も与えられはしない。そして求めてば…

  • 狼日記

    柵で囲われた牧草地のそばに彼は住んでいました。彼は群からはぐれて一匹だけで暮らしています。真っ黒な毛並みのせいか、酷く恐ろしい姿に見えましたが実際には彼は菜食主義者で、そのためにとても痩せていました。いつも気難しい顔をして柵の傍らに寝そべっ…

  • 世界にふたりきり

    世界はぼんやりと煙っていた。雪は白いのに、どうして景色は灰色になるのか。ちらちらと睫を掠めて頬にあたり、暖かい息に舞い上がっては溶けてゆく雪片に関口は目を眇めて視界の悪さに窮屈な気持ちで歩いた。次々と舞落ちてくる雪を吸い込まないようにと呼吸…

  • 奈落

    暗いというよりは黒い。靴底から地面の冷たさが伝わってくる。その感触と革靴のたてる音から床は硬いコンクリートか石だということが分かる。小さな水の音が途切れ途切れして私はいつ冷たい水滴が首筋に落ちてくるかと首を竦めて歩いている。一切の光の失われ…

  • ヘンゼル

    父さんと母さんがこっそり相談しています。もう食べる物がないからあの子達を森へ捨ててしまおうって。私達はドアの陰でその声を聞いていました。お兄ちゃんは泣き出してしまいました。私はお兄ちゃんはどうしてそんなにたくさん涙が出るのかしらと不思議でし…

  • マルキ

    「お前は伊豆に行って静岡三島沼津を周り県庁市役所郵便局と歩いて、それから韮山で民家七件に立ち寄り駐在所に行って駐在と話をした」もう何度言ったかしれない道程を口にする。あんまり何度も口にしたので最早その道筋すら自分の辿った跡のように目に浮かべ…

  • ザリガニ釣り

    礼二郎はガキ大将だ。マジックでギュッ、ギュッとひいたみたいな眉毛に大きな目。髪も、長い睫毛も明るい亜麻色で、外国の人形みたいに綺麗な顔をしている。でも声はでかい。喧嘩が強いから誰も礼二郎には逆らえない。何故だか少年達の間ではみそっかすで苛め…

  • 声なたてそ。われは汝が眷属なれば

    一雨くるかと思っていたが結局空は崩れることなく蒸し暑い夜が来た。仕事をしようと机に向かったものの筆は一向に進まず、汗ばんだ腕に原稿用紙が張り付く不快感に辟易して私は早々に万年筆を放り出した。電灯の明かりも暑苦しいから消してしまった。暗がりで…

  • 僕に名前をつけないで欲しい

    しいて云うなら、それは母国語に対する憎しみだ。いつも己の頭の中を占めている、言葉、言葉、言葉。それこそが決して逃れることの出来ない檻なのではないか?私を惑乱させるのは生まれ落ちたときから降るように浴びせかけられ続けてきた故国の言葉達だ。それ…

  • けだものの恋

    一目で惹かれあったに違いない。群をはぐれた獣が初めて同種族の獣に出会ったように。彼らは発情し肉体を交わした。それは恋とは呼ばないのかもしれない。情愛などなかったはずだ。ただ、二言三言、言葉を交わしただけで情の生まれるはずもない。純粋な生殖行…

  • このささやかな死

    「うふふ」「遊びましょう」  少女の手がそっと私の手に触れた。ひんやりと冷たく、しかしひどく生々しい。はじかれるように私は顔を上げた。こめかみを幾筋もの汗が伝い落ちた。汗ばんだ自分の手に重ねられた、白い、柔らかな肉。少女…

  • 黄泉路

    夕刻のバスの中で私は窓の外を眺めている。他に乗客は誰もいない。昼と夜の狭間の薄黄色い光が外の世界を照らしている。それとは対照的に車内は暗く運転手も人型の影に過ぎない。もう少ししたら通路の天井に蛍光灯が灯り寂しい光で車内を満たすのだろう。単調…

  • 蝶の墓守

     ひらひらと鱗粉を煌めかせて羽ばたく華奢な生物を追って、ふわりと白い捕虫網が視 界をよぎった。奇妙な光景がここ数日の聖地では見られた。グレイとくすんだブルーの制服の研究員 達が捕虫網を片手に庭園や森の中を駆け回っている。「エルンストー、そっ…

  • Step On Tiptoe

    真っ黒な影。逃げても逃げても追ってくる。巨大な獣。必死で走るのに思うように体が動かない。 足が縺れて転倒した。――やめて!振り返り叫んだ。――食べないで!大きな影が覆い被さってきた。「いやああああ!!」自分の悲鳴で目が覚めた。跳ね起きてそこ…

  • Missing Bird

    「なんだ、また留守なのか?」オスカーは器用に片方の眉だけ眇めてみせた。「最近週末はいらっしゃらない事が多いんです」ティムカが申し訳なさそうに言う。「金曜の晩から出掛けてしまうらしくって……」どこに行っているんだ?と訊ねたがティムカは首を横に…

  • 幸福な結末

    「どうぞ」今日最後の一皿をヴィクトールはテーブルに着いたルヴァの前に置いた。最高の出来のパスタソース。まるで今日彼に食べて貰うために作ったような 気がしてヴィクトールはおかしな気分だった。燭台に灯をともすと暗いフロアのこの一角だけが暖かな光…

  • 完璧な一日

    「完璧だ」一口含んでヴィクトールは唸った。エビとムール貝のトマトソース。本日の特別メニュー。「こんな巧いパスタソースは生涯、二度とお目にかかれないかもしれませんね」料理長のゴーシェ元大佐も四角い顎を擦って感嘆した。「閣下、届きましたよ! イ…

  • 果ての空

    澄み渡った青空だった。地平が弧を描き途切れる果てまで続く青。その青の深度のあまりの深さに却って暗さを感じさせるような。無音の世界。一人きりだった。いつからそこにいたのだろう。時の始まりの瞬間から?目に映るのは青の色だけだった。ずっと鳴り続け…

  • 春の雨

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  • 恋の鳥

    本と埃と、どちらかがここの主人であるに違いない。王立図書館の地下書庫では人間 達は彼らの邪魔にならないように極力静かに大人しく振る舞わねばならない。長年馴染 んできたルヴァはともかく、新参者のヴィクトールなどはよく彼らと衝突する。分厚い年鑑…

  • 春、駒鳥たちは胸を血に染める。

     若い頃、といってもまだ若いつもりだが、カカシはモテた。忍びの世界では強い者が男女の別なく賞賛を受けるが、精鋭を選りすぐった部隊の中でも屈強な男達に混じる年若いカカシの細身の体や色素の極度に薄い髪の色などが異彩を放っていたせいだろう。幼い頃…

  • #2 秘伝チョコ

    「なんだぁ、おまえら?」玄関を開けたイルカは頓狂な声を上げた。泥だらけの七斑一同が勢揃いしているのだから無理ない。「イルカ先生、カレー作って!」「はぁ?」カレーカレーと連呼するナルトから視線を上げて、カカシへ物問いたげな顔を向ける。「イルカ…

  • #1 思い出カレー

    路肩に停められた荷車の上で七班の下忍三人は口数少なくぼんやりと晴れた空を見上げていた。雲雀がピーチチチと高く高く昇っていく。春の陽は暖かく少し動けば汗ばむほどだ。捲り上げた袖も裾も泥だらけで、サクラは爪の間に詰まった泥を気にしている。班長の…

  • 夢路

       懐かしい風の匂いがしていますあの扉から風が入ってくるのでしょう階段の踊り場に黄金色の日差しが差し込んでいます柔らかな光あの扉の外からそこでは空気の澱むことはないのでしょう乾いた風がずっと吹いています&nb…

  • 月のうさぎ

    巨大な洞窟を思わせる薄暗い地下室の板敷きの床にじかに座り込んで、いつものご とく、まったく何時でもどこででもそうなのだ、彼は夢中で本を読んでいた。人の背 丈の倍くらいはありそうな書架に囲まれた一隅、建物の地上に出ている部分に作られ た明り取…