日記

■2009年05月31日(日)15:28  青猫横町 18
 アオは自分のしっぽが大好きだ。
 今も縁台の上に寝っ転がって、ぱたぱたと尻尾を振って、自分で自分のしっぽを捕まえては噛みついたりして遊んでいる。
 わたしにしっぽはついていないから、それがどんな気持ちなのか分からない。
 今日のはたけさんも同じだ。
 縁台の上に横向きに転がって、オレンジ色の本を読みながらにまにま笑っている。
 わたしがいることなんて気がついていないみたい。
 アオもはたけさんも、一人で楽しそう。
 ちょっと呆れてしまう。
 わたしは縁台の端っこに座って、転がっているはたけさん越しにはたけさんの家の窓を覗き込んだ。
 昨夜の犬はどこにいるんだろう。
 うみのさんに構って欲しがって吠えていた犬。
 きっと甘ったれにちがいない。あんなに吠えつくなんて、ちょっとわがままでやんちゃかもしれない。
 なのに、人がいる時に出てこないのはなんでなんだろう。人見知りするのだろうか。はたけさんには懐いていないのかもしれない。うみのさんの前にしか出てこないのだろうか。
 うみのさんは大変だなあと思った。
 今日は曇っているけれど、暖かい。雨の日が続いていたけど、もうじき晴れてきそうだ。お日様が出たらきっと暑いくらいだろう。
 お昼が近くなって、やっとはたけさんは起きあがった。
 お昼ご飯にそうめんを茹でて、庭からもいできた胡瓜に味噌を付け、わたしも一緒にかじった。
 はたけさんはいつもにもまして、ぼーっとしている。
 ご飯を食べるとまた寝転がってしまった。なんだか怠そう。
 はたけさんが起きないので、わたしは庭に降りてはたけさんの植えた野菜の苗を見て回った。
 トマトの苗にアブラムシがくっついていて、茎から汁を吸っていた。
 アブラムシがつくと、植物は枯れてしまうからよくないなと思った。
 テントウムシはアブラムシを食べるから、テントウムシを放すと良いんだと、お祖父さんが言っていた。赤くて黒い星が七つついているテントウムシは害虫を食べてくれるけど、星の数が二十八のやつは逆に植物の葉っぱを食べてしまうからよくないのだ。
 お祖父さんの庭はもっと広くて、大きな木が植えられていた。
 お父さんとお母さんに連れられてお祖父さんの家に行ったことを思いだした。
 わたしはナナホシテントウがいないかなと思って、庭の隅の雑草の茂みを覗き込んだ。黒い細長い体の羽虫や、豆粒みたいなコガネムシがいた。しゃがみ込んで茂みの中を探していると黒い背中に赤い星が二つついたテントウムシがいた。わたしはナナホシテントウの方が赤くて好きだけど、フタツボシテントウもアブラムシを食べると聞いたから、それを捕まえてトマトの茎にくっつけた。
 アブラムシを食べないかなと思ったのに、テントウムシは急に違う場所につれてこられてびっくりしたらしく、アブラムシの背中の上を行ったり来たりするばかりでなかなか食べない。
 どんな風に食べるのかみたいのに。
 じっと座っていたけどテントウムシはウロウロするばかりなので、つまらなくてわたしはまた縁台に登った。お日様が出てきて暑くなってきた。日陰に入るとほっとする。
 はたけさんは本を読むのをやめて、体を丸めて頭を抱えていた。
 寝ているのかなと思ったのだけど、頭を押さえている手に力が入って震えているのに気がついた。灰色の髪を掻きむしるようにした指先が白くなっている。
 様子がおかしい。


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ちなみに犬は目の前にいます。

■2009年05月30日(土)08:04  青猫横町 17
 夜、布団の中で暗闇の中をじっと見ていると、どこまでも奥へ奥へと空間があるような気がする。そこに天井があって、壁があると分かっているのだけど、何もないつもりになって目を凝らすと、底のない暗がりを覗き込んでいるみたいな気がする。
 しばらくそうやって目を凝らしていると、今度は真っ黒な壁が目の前にあるような気もしてくる。
 どこまでも何もない暗がりが続いているのかもしれない。すぐ目の前は行き止まりなのかもしれない。
 隣に寝ているはずのお母さんも、いないみたいな気がしてくる。
 息を詰めて、目を見開いている。なんにも見えない。
 寝そべっているのが自分の家の暖かい布団の中なのか、知らないどこかなのか分からなくなってくる。
 突然、犬の吠える声が聞こえて、わたしは我に返った。
 だんだん暗さに目が慣れて、見慣れた部屋が見えてくる。やっぱり、ここは自分の家のお母さんと私の部屋で、隣にはお母さんが眠っている。もぞもぞと寝返りを打って、私は声のする方へ目をやった。
 わんわん!と勢いよく犬が吠えている。
 わんわん、わんわん、壁の向こうのお隣から聞こえてくるみたいだ。
「やめなさい!ちょっと…!」
 うみのさんの声がした。
 やっぱり、お隣のはたけさんの家から聞こえてくるらしい。
「やめなさい!やめなさいって!ばかッ!」
 ガタガタ、バタン、と音がして、うみのさんが何か言っている。
 どうしたんだろう。
 今日の昼間は見なかったけれど、今まで見た事もなかったけど、はたけさんの家では犬を飼っているのだろうか。
 うみのさんが犬に吠え掛かられているみたい。小声で叱っている声も聞こえる。
 はたけさんは助けてあげないのだろうか。
 心配になったけど、お母さんは眠っているし、もう夜中だし、どうしよう。
 暫くすると静かになった。
 それからもっと時間が経って、わたしがうとうとしはじめた頃。
 お隣から小さく、犬の声が聞こえてきた。
 ふん、ふん、くぅん、と甘えた声を上げている。
 ああ、かまってほしかったんだ。
 柔らかく甘ったるい、その声を聞いていると安心して、わたしは眠ってしまった。


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とーなーりーはーなーにーをーすーるーひーとーぞ〜。

■2009年05月30日(土)01:11  青猫横町 16
 お昼を食べ終わった後、うみのさんが鉄板を仕舞いに台所へ行ったので、わたしも自分の使ったお皿とおはしを持ってうみのさんの後につづいた。
 背伸びして流しの中に食器をつけると、うみのさんはにかっと笑った。
「えらいな、自分の分は自分でちゃんと片づけるんだ」
 ほめられてわたしは恥ずかしくなってうつむいた。
「ノドカのお母さんはしっかりした人なんだな」
 そう、うみのさんが言ったので、わたしは嬉しかった。
 うみのさんの後について部屋にもどると、はたけさんは卓袱台の横でころがっていた。
 うつぶせで、ひじをついて、足をぶらぶらさせている。
 アオが寝そべってぱたん、ぱたんとしっぽをふっている時とよく似ている。
 うみのさんは、はたけさんの食器も流しに持っていって洗い始めた。
 わたしは卓袱台の横に座って、部屋の中を見回したり、はたけさんの様子をうかがった。はたけさんは体を伸ばすと、さっきうみのさんが本棚にしまったオレンジ色の本を引っ張り出して読み始めた。
 わたしは窓の外を見た。
 もう、あの人達はいなくなっただろうか。また戻ってきていたりしないだろうか。
 窓にそろそろと近づいて、レースのカーテンを少しだけ捲って外を見てみた。
 はたけさんの庭には誰もいない。
 わたしの家はどうだろう。
 見えないだろうかと頭を窓にくっつけていたら、上の方でかしん、と鍵を外す音がして、からからと窓が開いた。うみのさんが後ろから、わたしの頭越しに窓を開けたのだ。
「誰もいないよ」
 うみのさんは左右を見渡して言った。
 にゃあああん、と声がして、縁台にアオが飛び乗ってきた。わたしが手を伸ばすとアオは体を擦りつけてきた。わたしはアオを抱っこした。
 うみのさんも身を屈めて、アオを撫でた。
「おっきい猫だなあ」
 うみのさんがびっくりしたみたいに言った。
 アオの柔らかいお腹が腕の中でむにゅむにゅして気持ちいい。
 その日はお母さんが帰ってくるまで、はたけさんとうみのさんの家にいた。


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にゃあん。

■2009年05月26日(火)23:28  青猫横町15
 うみのさんが鉄板をよく熱して油をひいた。
 うみのさんのうちのお好み焼きを焼く鉄板は四角くくて縁のない平たい真っ黒なフライパンみたいなので、小さな丸いガスコンロの上で熱されて、もうもうと黒煙をあげている。
 そこへ、うみのさんはネギをばらばらと撒いた。
 最初に言ったとおり、うみのさんはネギをたくさん切った。わたしはネギがこんなにいっぱいでは食べられないと思ったのだけど、熱した鉄板の上でこんがりと焼けていくネギからはとてもおいしそうな匂いがしてきた。
 うみのさんは焼けたネギの上からお好み焼きのタネを流し込んだ。ジュウウと鉄板が鳴いて、香ばしい匂いが広がる。
「そろそろホットプレート買いましょうか」
 はたけさんが言った。
「支給品をこんな事に使ってるなんてばれたら叱らるでしょ」
「みんなやってますよ。ガスボンベは自前なんだから、問題ありません。このコンロの方が火力も強いし、いろんな料理に使えますよ」
「ーーーなんだか野営してるみたいな気分だなあ」
 片側半分焼けた生地の上にうみのさんはイカの切り身をのっけた。
 それからうみのさんは真剣な顔で、フライ返しと木のへらを両手に構えた。そろそろと、お好み焼きの下にフライ返しをもぐらせてゆく。
「イルカ先生、がんばって」
 はたけさんが声援を送ると、うみのさんは頷いて「えいや!」と気合いと同時にお好み焼きをひっくり返した。
 お好み焼きは少し横にすべって、生の生地が白くスライディングの跡を引いた。
 うみのさんはそれを木のへらでこそいで、お好み焼きの下にしまいこんだ。ちょいちょいと、お好み焼きを鉄板の真ん中に戻すと、元通りの丸いお好み焼きになった。
「うまい、うまい」
 はたけさんが喜んで言う。ふん、とうみのさんは鼻息を吐いてわたしを見た。にっこり笑う。つられてわたしも笑う。
 じゅうじゅうと美味しそうな匂いがする。
 こんな風に人と一緒にごはんを食べるのは久しぶりかもしれない。
 いつも一人か、お母さんと二人、この頃ははたけさんと二人でお昼を食べているけれど、うみのさんが一緒なだけでとてもにぎやかに思える。
 うみのさんは木べらでお好み焼きをぱんぱん叩いた。こんがりきつね色の上にソースを垂らし、かつお節をふりかける。かつお節が生きているみたいにふらふら踊るのを見て、また笑い合った。
 青のりをまぶしたら出来上がりだ。
「マヨネーズ、かけるか?」
 皿に取り分けて貰ったお好み焼きを食べようとしたら、うみのさんがちゃぶ台の向こうから腕を伸ばしてマヨネーズのチューブを渡してくれた。中ぶたの星形の穴からねちりとマヨネーズを皿に絞り出す。
「やっぱりお好み焼きにはマヨネーズだよな」
 うみのさんが言うと、はたけさんが嫌そうな顔をして「邪道…」と呟いた。
「カカシさんは好みがうるさいから」
 うみのさんは大きな口でがぶりとお好み焼きに食いついた。
「ノドカだって、ネギが嫌いですよ」
 はたけさんが言ったので、わたしはお好み焼きを口に入れたまま思わず背筋を伸ばした。
「ネギ、嫌いだったのか?」
 うみのさんが目を見開いてわたしを見た。わたしは答えに困ってしまう。ネギは嫌いだけど、うみのさんの焼いてくれたネギのたくさん入ったお好み焼きは美味しいと思う。
 答えられないでうろうろ目を泳がせていたら、うみのさんは
「でも、こうやって食べると美味しいだろう?」
と聞いてくれた。
 わたしはこくこく頷いた。
 うみのさんはにっこりした。
 うみのさんは食べながら次々と鉄板の上でお好み焼きを焼いた。三人で四枚のお好み焼きを食べた。お昼だけでおなかがぽんぽんになった。


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イルカ先生誕生日おめでとう〜。
なんにもしないのも寂しいので青猫。
ネギ焼き食いたい。

■2009年05月19日(火)22:53  復活しました
やっとネットが繋がりました。
手違いでプロバイダに二週間も放置プレイを食らった。
机回りも徐々に整えてますが、プリンターの電源コードが見つからない。
本を相当、処分したのですが、それでもまだダン箱が山のよう…
身軽に暮らすって難しい。

もやしの方>コメントありがとうございます。
全然、まったく!お気になさらずに!
というか、気にするような事ではござりませんよ!
情報を送って下さったご厚意はただ嬉しいです。
冬は結局、京都には行けなかったのですよ。すみません。
いや…京都ラーメンツアーをやろうと思ったのに、なんも考えんと大阪直行直帰で新幹線の切符買ってしまいまして…ぷらっとこだまなので途中下車も出来ず。
地元のラーメン博物館にも店が入ってるそうなので、そっちに行ってみます。
夏の大阪も行きたいなー。
今度はもっと計画的に。(←無理な夢をみるでない)

■2009年05月02日(土)00:36  そして僕はとほほに暮れる
いつもだったらコピー本を作ろうと悪あがきをしてるとこなんですが、
引っ越し5日やねーん。
ムリー。ムリー。
なんか色々、ムリー。
最初は4日って言ってたんですけどごねて5日にしてもらいました。
傷めた左肩がええかげんあかんようになってきたので医者に行く決意もしました。
疲れちゃってめろめろしてるので、最近は体力作りのために一日百回、腹筋背筋やるようにしました。めろめろ。
冬に大量に買い込んだカカイル本がまだ読めてません。自分、どんだけ…
更に4日も買い込むのか、自分よ…
気分はすっかり読み専です。
引っ越し終わったら真面目に活動します。すまんこってす。

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