■2009年07月13日(月)20:58
青猫横町 20
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はたけさんは目を閉じ、眉の間に皺を寄せている。 わたしは自分が病気の時にする事を思い出そうとした。 お布団に横になって、お母さんが氷枕をしてくれる。ビタミンCが入ってるからとオレンジジュースを飲む。それから、薬。 −−−薬だ。 昨日、はたけさんが持っていた紙袋。青い文字で「木の葉病院」と書かれていた。病院でくれるお薬の袋だ。 わたしはもう一度、はたけさんの家に入った。 昨日、はたけさんが紙袋を置いた卓袱台の上にはもうなかった。 茶箪笥の扉を開いてみる。引き出しも開けてみる。メモ帳や短い鉛筆、細々とした物が詰まっていて、薬の袋はない。 台所の流しの上や食器棚も見たけれど、見つからなかった。上の方の戸棚は手が届かない。 居間に戻って、左手の襖を開けた。中には大きなベッドがあって、床には服が散らばっていた。うみのさんが着ていた黒い、忍者の人が着ている服と、はたけさんの白いTシャツが一緒になって丸まっている。ベッドの上では毛布が足もとの方へ押しやられている。 わたしは薄いタオルケットを引っぱって、腕に抱えた。薬は見つからない。 縁側に戻ると、はたけさんにタオルケットを掛けてみた。 はたけさんは水色のタオルケットにすっぽりくるまってじっとしている。 薬が見つからない。 お医者さんに行ったら貰えるだろうか。でも、はたけさんは自分では歩けそうにない。わたしがはたけさんを運んでいくのは無理だ。わたしははたけさんの傍でうろうろと落ち着かないアオを見た。アオも不安そうにわたしを見上げた。 はたけさんの庭の隅、板塀の端っこにある木戸へ目をやる。 はたけさんといつも行く商店街の魚屋さんのもっと向こうに、お医者さんの看板があったのを覚えている。じゅうびょうにんが出た時は、お医者さんは黒い大きな鞄を持って家に来てくれる。ずっと前にお祖父さんの家にお医者さんが来ていたことがあった。 「一人で外に出てはだめよ」という、お母さんの言葉を思い出す。 水色のかたまりになってしまっているはたけさんを見た。アオが首を傾げる。 わたしはしゃがんでアオを抱き上げると、庭に降りて靴をはいた。 それから、ゆっくりと木戸に向かって歩いた。
--------------------------------------------- 萌え所は寝室です。 | | |