「赤い道」
「あの子をそこへ沈めて、あなたは此処へ帰っていらっしゃい」
赤い道を辿れば呪詛の歌が聞こえてくる。
其処にあるのは食い散らかされた私の残骸だ。
あなたは私の歌を聴き、私を見つけてくれるだろう。
沈められた遠い記憶を揺り起こして、あなたはその道を辿ってくる。
生き物の匂いのしない場所。
私の傍らに静寂。
私こそが安寧。
淵を覗けば私の顔が見えるはず。
あなたの涙を舐めとった私の舌を覚えているだろうか。
暗い水面にくちづけて
凍えた声を吸い取って
濡れた髪に腕を絡めて
冷たい羊水の中で生まれることのない胎児を抱きあげて。
その時、
私はあなたに帰り道を指し示す腕を一本あげましょう。
その腕を形見にあなたは歩いて。
私の手を引いて。
あの子の手を引いて。
私を其処へ沈めて
あなたは帰ってゆくの。