「夜、上空-24℃」
びゅうびゅうと風が鳴っている。
雲の流れが速い。
冷たく澄んだ空気が月の光を真っ直ぐ地上まで透過させる。
夜空は青い。
月明かりに雲が青白く光って、足早に空を駆けてゆく。
二人の歩く速度よりも速い。
北の大陸から流れ込んできた冷たい空気の塊が遥か上空を南へ南へと張り出していく。
春が連れてきた暖かな大気は押し戻されて里は冷たい空気に覆われている。
「さ、さ、む、い」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるように歩きながら子供は両腕で自分の体をぎゅっと抱きしめている。
イルカは括った髪を風に好き勝手に弄らせながらてくてくナルトの後を歩く。
「イルカ先生、寒いってばよ」
振返った子供がブルブル震えながら訴える。イルカはゆったり笑った。
「イルカ先生、なんでそんな平気な顔してられるんだってば」
「おまえこそ、忍者のくせになんでそんなに堪え性がないんだ」
「う〜。だって寒いじゃん」
握り締めた手をブルブル震わせながら歯をカチカチ鳴らしてナルトは情けない顔をした。
「そうやって力むからだめなんだ。体の力を抜いてだな」
イルカはナルトの固まっている肩に手を置いた。
「息を大きく吸って、寒さを自分の中にいれちまうんだ」
すう、とイルカは息を吸った。肺に冷たい空気が流れ込んでくる。
倣ってナルトも大きく息を吸った。
胸いっぱいに冷たい空気を取り込む。
「寒い匂いがする」
「うん」
すう、はあ、と幾度か深呼吸して体を大気に馴染ませる。
寒さは変わらない。
だが自分の体の方が寒さに同化してしまったような気持ちがする。
体をがちがちに固めて拒絶しようとしていた時は苦痛で堪らなかった冷たい空気が、体を開いて受け入れてしまうととても心地よい。
もう一度大きく息を吸ってナルトは空を見上げた。
「寒い匂いがする」
「−20度くらいの寒気団が上空に来ているらしいな」
「寒気団?」
空を見上げてナルトはぽっかり口を開けた。
「じゃあ、あいつらが寒気団なのか?」
「あいつら?」
イルカも一緒に空を見上げた。
強風に吹きちぎられた雲が次々に流れてゆく。
おおい、おおい、とナルトが空に両手を伸ばして呼んだ。
「俺も寒気団に入りたいってばよ!」
凄いスピードで上空を駆け抜けて、大陸中の人々を震え上がらせるのだ。
「カッコイイー!」
あのおっきい奴が団長かなあ、一際大きな雲を指差して無邪気に子供が言う。
「イルカ先生も寒気団に入る?」
「いいなあ」
遮るもののない上空をジェット気流に乗って、熱を持たず、情け容赦なく、勝手気ままに駆け抜けてゆく。
そして南の太陽に融かされて跡形もなく消える。
「カッコイイなあ」
おおい、ナルトが空に向かって呼ぶ。
夜、上空-24℃。
城壁に囲まれた隠れ里にて。
忍が二匹。
すとーんと晴れ渡った夜空に向かって遠吠えをあげる。