肉食の夜

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 イルカのキスは豪快だ。
 がしっと頭を掴み、ぐい、と唇を押し当ててくる。
 勢いはあるけれど、あまり激しくはない。舌を絡めるのは苦手らしい。時々、ちゅっと音がしたりすると、自分で慌てたりしている。
 今、イルカはカカシの体にのし掛かられながら、幼い動物が口で物の感触を覚えるようにそっとカカシの唇をはんでいる。
 いつもの雄々しいキスとは違って、恐る恐るカカシの存在を確かめているような口づけだ。ちゅ、ちゅ、ぷちゅ、と可愛らしい音が響いてカカシは笑った。
 舌を出して、べろりと舐めてやると、イルカは少し驚いたようだ。
 ベッドに身を横たえて、体を重ねながら舌をイルカの口腔に差し込む。粘膜をぐずぐずと摺り合わせると、イルカが居たたまれないように身動ぎした。
 いつもはもっと積極的に腕を絡めてくるのに、今、イルカの手はぱたりとベッドの上に投げ出されている。受け身に立つ事を了承したはいいが、どうしたらいいのかわからないといった様子だ。
 イルカの上着の裾を掴んでたくし上げる。日に焼けていない腹と胸が剥き出しになる。飾りみたいに色の濃い粒が二つ、胸にのっている。カカシはそっとそれに指を触れてみる。やわやわ揉むと、イルカが息を詰めた。
「あの、そこは…」
 いいです、と小さく言うのを無視して弄り続ける。乳輪を指で撫でて、乳首を指の間に挟み込むと、芯をもって硬く立ち上がる。
「こんなちっちゃいのに、ちゃんと反応するんだ」
 ぴん、と立っちゃって可愛い。
 感心して言うとイルカは真っ赤になった。胸を弄られるのをイルカは好まない。女の子扱いされているような気がするらしい。
 別に女の子と同じに扱っているわけじゃない。ただ、イルカの滑らかな胸筋に触れたいし、そこにそんな物がくっついていたら弄るだろう。可愛いもの。
 カカシはちゅっと乳首に吸いついた。
 ぎくん、とイルカの体が強張る。宥めるように掌で胸を擦りあげて、首許に蟠っている上着を押し上げる。
「脱いで」
 言いながら舌で乳首を転がす。こりこりした感触が可愛らしい。
「そこはいいですって!」
「いいから、脱いで」
 イルカは嫌がるように身を捩りながら、自分で上着に手を掛けた。首から衣服を抜き取る時、濃紺の上着にすっぽりと頭が隠れて、斜めに捩られた体の伸び上がった腕から胸の脇へ続く筋肉がきれいな動きを見せた。思わず、無防備な腕の内側に噛みついてしまう。衣服に頭を覆われたまま、びっくりしてイルカが藻掻いた。
 構わず脇を舐めながら、乳首をくりくりと指で潰した。避けるように身を丸めるのを追いかけて、指で摘むと衣服越しにイルカが小さく呻いたのが聞こえた。
 横を向いたイルカの腰に、自分の腰を押しつけながら片手を腹筋に滑らせズボンのウェストに差し込むと、「カカシさん!」とイルカが叫んだ。
「早く脱いじゃいなよ。変なプレイみたいだよ?」
「あ、あなたが−−−!」
 カカシは脱ぎかけで止まってしまっている上着を引っ張って手伝ってやると、憤然としたイルカの顔が現れた。脱ぐ際に襟の詰まったシャツに顔を擦られたせいだけではなく顔が真っ赤だ。
「ちょっとは待てないんですか!?」
「待てません」
 考える隙を与えたくないのだ。やっぱりやめます、とか言い出すかもしれないじゃないか。
 やっとお許しがでたのだ。
 ほつれてくしゃくしゃになった髪から結い紐を抜き取った。ばらりとイルカの黒髪が顔に落ちかかる。髪を解いたイルカはストイックさが乱されて、色気がある。
 鼻先で髪を掻き分けて首筋に口づける。ズボンに差し込んだ手を進めて、イルカの中心を握りこんだ。硬くなりかけている。窮屈な布地の中でゆるゆる扱いてやると、イルカが唇の間から熱く吐息を吐いた。
「気持ちよくなってきた?」
「ん…」
 イルカは恥ずかしそうに小さく頷いた。今日は抱かれる側に立っているせいか、態度がしおらしい。触っていると手の中のものは熱く硬さを増し、先端を撫でると液が滲み出した。それを指に絡めて滑らかに竿を扱いた。
 目を閉じて感じ入っていたイルカは「あ、」と呟いて、カカシを見上げた。
「俺も、します」
 急に思い出したようにイルカはカカシのズボンに手を掛けた。
「ん。今日はいいです。今日は俺の好きにさせて?」
「でも…」
 いつもはお互いに触り合って達するまでをする。それはそれで気持ちいいし、イルカが自分から触れてくれるのも嬉しい。
 でも、今日は自分がイルカにしたい。イルカがしてくれるのはただひとつのことでいい。
「俺は、ここでしたいから」
 イルカに横を向かせると、カカシは後ろからイルカを抱きしめる姿勢で、ズボンの中の指を更に奥へと潜らせる。性器の下の陰嚢を擽って、しっとりと湿った熱い狭間をたどり、蟻の門渡りから最奥の窄まりまで指を滑らせる。イルカが逃れようと体をずり上がらせるが、腰をしっかりと抱いて押しとどめる。
 そこに辿り着くと、自分でもドキドキした。
「ここに俺のを入れるんですよ」
 欲の滴る声で囁きながら、確認するように指の腹で襞を撫でた。
 「ふぁ…」とイルカが泣き出す直前みたいな声を出した。窮屈なズボンの中で、指先でやわやわと揉み込んだ。今にも指が入ってしまいそう。イルカがズボンの上から手を押さえてくるが、無論、なんの抵抗にもならない。
「ほんとうに…?」
 弱々しくイルカが尋ねる。本当にそんなことをする気なのかとまだ躊躇っている。
 カカシはもう一方の手も無理矢理ズボンにねじ込んだ。
「ちょっと…んぅー」
 更に窮屈になったズボンの中で不自由にイルカの前を扱く。完全に立ち上がった先端が布に擦れて下着の中がぬるぬるしてくる。
 染みだした液を脚の間から窄まりへと導く。濡らしながら注意深く解して、人差し指の先を埋めた。「や、」と恐ろしげにイルカが声を漏らす。
「ちょっと…待っ…」
 構わず第一関節まで埋め込む。イルカの滑りをかりてはいるが、濡れないそこはきつい。慎重に抜き差ししてみたが摩擦が強くてイルカも辛そうだ。きつく目を閉じてじっと身を固くしている。
「先生、ズボンも脱いで」
 しっかり抱きしめたままイルカの耳に囁くと、「へえ?」とイルカは小さく問い返してきた。
「このままで?」
「うん。脱げるでしょ」
「脱げますけど…」
 イルカはくしゃりと泣きそうな顔をした。腕をどかしてはくれないのかと、目線で尋ねてくるけれどカカシはぐにぐにと奥を探り続けた。
「俺、手が塞がってますから、先生、自分で脱いで」
「え…いや、だ、あ、んぅ…」
 ぐち、とズボンの中から湿った音が響いた。
「早く」
 唆すように囁くと、イルカは震える手をズボンの前立てに掛けた。ボタンを外しジッパーを寛げると、ズボンの中に余裕が出来て手が楽になった。
「腰、浮かせて」
 イルカは指を後ろに入れられ、前を握られたままで、慎重に横向きの体を浮かせてズボンをそろそろと下げてゆく。
 初めてそんな場所に他人の指を受け入れさせられて、無理な姿勢を強いられているのが可哀想で可愛い。
 ぐぬ、と指を押し込むと、イルカは小さく鳴いてシーツに突っ伏した。露わになったうなじに吸いついて、背中にぴたりと覆い被さって指を抜き差しすると、逃れようとイルカの足首がシーツの上で藻掻いた。腹とシーツの間で反り返った性器がカカシの腕に擦れて濡れた感触を残す。性器の張った部分を擦ってやり、先端をまあるく撫でると、とろとろと蜜が溢れた。
「すごい濡れてきた。女の子みたい」
 正直な感想を漏らしただけなのだが、イルカは「違う!」と噛みついた。頬が桃みたいに熟れている。
「覚えてろよっ」
 イルカは陳腐な悪役みたいな科白を吐いた。
「忘れませんよ」
 忘れるわけがない。カカシは笑って身を起こした。背中から抱きしめていると、すっぽりとイルカを囲い込んでいるような気がして嬉しいのだけど、この姿勢はちょっと無理がある。指を窄まりから抜き出すと、イルカがはほっと息を吐いた。
 俯せのイルカの腿の上に跨って、脱ぎかけのズボンを引き下ろすと、引き締まった尻が現れた。いつも、ズボンの上から見え隠れする魅惑のラインだ。気を惹かれるまま両手でわし掴んで揉みしだいていると、イルカがくぐもった声で文句を言った。
「だから、あんた、なんかマニアックっていうか…もっと普通にしてくださいよ!」
「普通?」
「やるなら、さっさとやってくれ!」
 自棄のようにイルカは叫んで、枕に顔を埋めた。
「俺はいいけど、さっさとやったら、先生、痛いよ?」
 カカシの言葉に怯えたように背中がぴくりとするが、イルカは気丈にも言い返さない。その背中を宥めるように撫でて、カカシは腰のポーチから硝子の小瓶を取り出した。火傷や切り傷をした時に塗り込んでおく油だ。
「ちょっと我慢してね」
 イルカの白い尻たぶを掴んで割り広げると、柘榴のように色づいた蕾が奥に隠れている。カカシの視線に晒されたのがわかったのか、蕾はひくりと収縮した。そこへ半透明の薄黄色い油脂を塗りつける。温い感触が気持ち悪いのか、イルカは体を揺すった。体温で油脂が溶けて狭間を流れ落ちる。
 更にたっぷりと油を塗りつけると、カカシは中指を差し込んだ。
「ぁ…!」
 驚いたのか、イルカが足を閉じようとしたが、カカシの下敷きになって体の自由はない。油の滑りをかりて中指はゆっくりと根本まで突き立てられた。
 さあっとイルカの全身が粟立った。
「痛くないよね?」
 しゅくり、と音を立てて指が抜き差しされる。
 十分に慣らして、二本目の指を差し入れようとすると急にイルカの脚の裏側の筋が強張って、入り口が引き絞られた。これ以上の異物の侵入を体が拒絶している。
「力、抜いて」
 優しく言ったが、イルカは首を振った。
「無理です、出来な…っ」
「出来るよ。イルカ先生、中忍でしょ」
 イルカの背中が一瞬、強張った。だが、怯んだのは一瞬でゆるゆると息を吐きながら、イルカは硬くなった体から力を抜いて伸ばした。
 背中をゆっくりと撫でてやりながら、突き立てた中指に沿わせて人差し指も差し込んだ。
 はっっはっと短い呼吸を繰り返しながらイルカはそれに耐えている。
 通常の人間にはコントロール出来ない筋肉を自由に動かせるようにと修練を積んだ体だ。カカシもイルカも自分の体を物として扱うことを心得ている。経験がなくてもその部位を意識出来れば、コントロールすることは可能だ。
 自身にすら物のように扱われる体の内に、何かを求めてカカシはゆっくりとイルカの中を指先で探った。中の感触を探りながら、イルカのいい場所を探した。
 腹側の、指の第二関節くらいの深さ。昔、尋問部隊の連中に聞いた、男の体から快楽を引き摺り出す器官。注意深く中の壁を引っ掻いてゆくと小さなしこりが見つかった。
「うっあっ…!」
 びくびくとイルカが全身を震わせた。
「や、あ、…?」
「ここ、イイですか?」
 カカシは三本の指をくねらせて、イルカの感じる場所を擦ってやる。
「それ、やめ…っ!」
 唇を震わせてイルカはベッドにしがみついた。指を飲み込んだ襞がきゅううっと締まる。抜き出そうとすると引き留めるみたいにからみついてきた。摩擦が強くなる。小瓶から潤滑油を更に掬って塗りつけた。スムーズに指が滑り出す。
 イルカは歯を食いしばって、ひっきりなしに漏れ出る声を堪えている。
 押し殺した声を聞き、白い尻の狭間に出入りする自分の指を見ているうちにカカシはだんだん堪えられなくなってきた。イルカの体にこんな器官があることに興奮する。
 男同士でも繋がれる場所がイルカにあることに感動してしまう。
 イルカの中から指を引き出すと、カカシはイルカを仰向けに転がした。
 ずっと俯いていたイルカの顔は上気して、目の縁に涙が滲んでいた。目元を染めてイルカはカカシを睨んできた。
 いつも男らしいイルカの顔が泣きはらした子供みたいになっていて、その顔を見て、カカシは反省した。じっと耐えていてくれるから調子に乗ってしまったらしい。
「俺は実験体じゃないんですよ…!」
「ごめんなさい、そんなつもりじゃないんです」
 イルカの体を傷つけたくないからじっくり慣らしたかったのだけど、ずっと俯せで顔も見せないで嬲ったのは可哀想だったかもしれない。
 宥めるように熱を持った頬と、目蓋に軽く口づけてやると、イルカはぐすん、と鼻を啜った。
 柔らかく体を撫でて、頬を擦り寄せると、ほっとイルカの体が緩む。カカシは掌を滑らせて、イルカの足に絡まったままだったズボンを抜き取り、膝を掴んで大きく開かせた。ずっと体の下敷きになっていたイルカのペニスは張りつめてしとどに濡れていた。恥ずかしそうにイルカが目を伏せる。触れると先端の小さな口から粘り気のない密をぷつりと溢れさせた。イルカが「ん…」と小さく身動ぐ。
 もう、限界だった。
 カカシはズボンの前立てを開き、張りつめた自分のものを取り出すと、イルカの片膝を抱え上げた。数度、自分で扱いて滑りをもたせると、イルカの最奥に切っ先を宛がった。
 ひくりとイルカの体が震える。
「いいですか?」
 最後に確認の意味を込めて訊く。
「入れて下さい」
 イルカは浅く呼吸を繰り返しながら、きっぱりと答えた。イチャパラみたいな「もお、入れてぇ」じゃなくて、でも、カカシは胸がいっぱいになった。
「本当は、あなたには触っちゃいけないって思ってたんです」
 カカシが漏らした言葉にイルカは目を見開いてカカシを見た。イルカの視線を受け止めてカカシは微かに笑った。ゆっくりと身を沈める。
「………んんぅっ」
 イルカの食いしばった唇からぐぐもった声が漏れた。
 きつくて、熱い。カカシも息を詰めてゆっくり体を進めた。
「息、吸って」
 浅くなった呼吸を宥めるように言うと、言われるままにイルカは大きく息を吸った。息を吸えば腹の筋肉は緩む。腹腔が開くのに合わせて腰を進める。何度かそれを繰り返して、ようやくカカシはイルカの中に入った。
 二人とも肩で息をしていた。
「入りました」
 カカシはイルカの上に体を重ねて、胸を合わせた。全身をイルカに包まれているような気がする。
 イルカはぴくぴくと体を震わせながら、息を吐いている。ゆっくり掌で体を撫でさすってやると、張りつめて敏感になった体にはそれすら辛いのか顔を横に振った。暫く、じっと抱き合った。
 イルカは緩慢に腕を上げ、カカシの背中を抱いた。くしゃくしゃと髪を掻き混ぜられる。キスをした。
 腰を揺すると、「うんっ…」とイルカが噛み殺しきれないで声を漏らした。低く響く声に、背筋がぞくっとした。
 内側の粘膜に擦られるのを意識して、ゆさゆさと体をゆする。イルカの肌が汗をおびて、しっとりと吸いついてくる。気持ちいい。
「イルカ先生、好き」
 馬鹿みたいに素直な声が出る。
 苦しい息の下でイルカはキスをくれた。ちゅ、ちゅ、ぷちゅ、と可愛らしいキス。下の方では二人とも大変な事になっているのに、キスだけは子供みたいな無邪気なキスだ。
 カカシは腹の間に手を伸ばしてイルカのペニスに触れた。先ほどより柔らかくなってしまったそれを掌で扱いてやると、また硬度を取り戻してきた。イルカが眉を寄せて身を捩った。
「カカシさん、俺、もう…」
 イルカがイキそうになっているのを感じてカカシは手を放した。イルカが意外そうに目を見開く。
 カカシはイルカのものを放って、腰を強く揺すぶり始めた。
「え、あ、あ…、うんっ…」
 イルカが黒い眉を顰める。戸惑った目を向けてくる。カカシは角度を変えて突き上げながら、先ほど見つけたイルカの良い場所を探した。きつい突き上げにイルカの息が苦しげなものに変わる。内壁を擦り上げるように腰を回すと、イルカは息を詰めて体を強ばらせた。
「ここ?」
 イルカは黙って首を振ったが、カカシをくわえ込まされている場所がきゅうっと窄まってそこを教えた。
 カカシは口元を斜めにして、そこをひどく突いてやった。抱えたイルカの膝が、びくっと突っ張って暴れる。
 膝裏を掴んで更に大きく脚を開かせると、イルカの濡れそぼった茎も、カカシをくわえ込んだ蕾もすべて見えてしまう。
「ここ、後で舐めてあげる」
 つ、と指を茎の先端に滑らせると、たまらないといった風にイルカが腰を揺らした。性器をカカシの手に擦りつけるように腰を突き出してくる。
「イルカ先生、気持ちいいの」
 カカシも額に汗を浮かべて、にぃっと笑った。イルカは潤んだ目でカカシを見上げた。突き上げながら、イルカの性器を扱いてやる。でも、達する事が出来ないように先端は塞いでしまう。
「や、あ、あ、あ、なん、で、」
 揺すり上げられながら、イルカが切なげに訊いた。
「イッたら萎えちゃうでしょ。痛いだけになったら、先生が、可哀想だから」
 カカシも息が上がってきていた。もっと長く、この時間を味わっていたいのに、自分の絶頂も近い。
「痛くて…も、いいから…」
 イルカの性器からたらたらと先走りの液が溢れた。カカシは先端をきゅうっと摘んで絶頂を堰き止める。
「あ…、もう、やです…っ」
「だめ、一緒にイきたい…から…」
 はっ、と息を吐く。
 俺だって、イルカ先生にメロメロになって欲しいから。
 言葉遊びなんかじゃない。本気で。
 今更、生き方は変えられない。
 だけど、この人だけは諦められない。
 そんな気持ちになったのは初めてだった。
 いつでも物わかりよく、去っていく誰かを見送ってきた。
 優先させるものを間違えて、やはりあの男の息子だと誹られるのが怖かった。
 だけど自分はもう分かってしまった。ずっと痛みを庇ってきたんだ。
 本当は父親を信じていたかった。
 俺の代わりにオビトは信じると言ってくれたのに−−−。
 自分の前から消えてしまった彼らのことを考えればどこかが疼く。
 毎晩、毎朝、祈ってる。
 これが痛みだということがやっと分かった。
 だから、もう、手放せない。
「好きです。好きでした。ずっと好きだった」
 早口でイルカの耳に吹き込んだ。
 イルカの根本を握ったまま蜜を分泌する先端の小さな穴を人差し指の先で抉った。イルカの喉から「ひっ」と小さな悲鳴が上がり、体が仰け反るように張りつめた。指の先で押し広げられた鈴口から濁った粘度の高い体液がくぷりと滲みだす。緩んだ前と裏腹に、後ろの穴はきゅうっと窄まって侵入しているカカシを締めつけた。
 強すぎる感覚にイルカがぐらぐらと首を振った。そのまま堕ちてきて欲しい。自分の腕の中へ。
 もう無駄口は叩かず、カカシはイルカを追い上げる事に専念した。
 荒い呼吸だけが部屋に響いた。自分の汗がイルカの腹に落ちるのを見ていた。イルカはがくがくと揺すぶられるままになっている。
 絶頂が近い。
 不意に、がしりと両側から頭を掴まれた。イルカの大きな掌がカカシの顔をしっかりと包んでいた。
 顔を上げると、イルカの黒い目と出会う。朦朧とした顔つきでカカシを見ている。
 どこかへ押し流されてしまいそうなのを必死で押し止まっているような顔だった。
「あんただけだ」
 苦しげにイルカが言った。
「あんたにしか、こんな事は、許さない」
 イルカの眇められた片方の目からぽろりと涙が落ちて、頬を濡らした。
「惚れてるんだ」
 ぐっと眉間に力を込めて、イルカが言った。間近で響いた低い声がずきん、とこめかみに響いた。
「最初から、きっと、惹かれてた」
 いまわの際の人みたいに、イルカは告げた。
「あなたみたいな人を、他に知らない」
 イルカが瞬くと目蓋の間から大粒の涙が零れて顎の先から滴った。澄んだ黒い目が濡れて光って、カカシをじっとみつめている。
 胸の内が引き絞られるような気がした。その感触は、恐れに似ていた。期待している。怖がっている。喜んでいる。かわいそう。大事なんだ。愛しい。色んな感情がごっちゃになって息が止まりそう。
「イルカ先生は、いつも、」
 カカシは歯を食いしばって声を落とした。
「俺が欲しがってる以上のものをくれるね」
 自然に笑みが浮かんだ。
 頭の中が真っ白になる。
 ほら。全部持っていかれるのは俺の方だ。
 カカシはイルカの性器から手を放し、両手でイルカの膝を抱え上げた。
 寒気に似た痺れるような愉悦に逆らわず突き上げて、震えながらイルカの奥に精を放った。一度では達しきれずに、二度、三度と腰を振るいながらイルカの中に注ぎ込んだ。腰を打ちつけるたびに、イルカは声を上げて、解放した性器から精液をまき散らした。
 根本まで押し込むとイルカの中にたっぷりと注がれた自分の精液が溢れて濡れた音をたてた。それを見るとひどく満たされた気持ちになって、カカシはイルカを抱きしめて荒い息を吐きながら目を閉じた。





 カカシが抜く事もしないで中で達したため、イルカの股間はぐちゅぐちゅだった。
 溢れるくらいにたっぷりと注ぎ込んだ。
 さんざん我慢させて、解放した途端に自分でも溢れさせてしまったため、イルカの下のシーツは汗だの体液だのでぐっしょりと湿っている。
 イルカは放心したように枕に背を預けて宙を眺めている。
 泣いたせいか目蓋が腫れている。
 カカシはイルカの胸にぴったり頬をくっつけて目を閉じている。
「イルカ先生、すごかった…」
 カカシはうっとりと呟いた。
「俺、もうメロメロです。すごく気持ちよかった」
 イルカの胸に寄り添って白い頬をうっすらと染めて、初めて体験した乙女のようにカカシは告白した。
「………そうですか」
 イルカは放心したままどうでもいいみたいに答えた。ちょっと鼻声だ。
 無意識らしくイルカの手がカカシの髪をほさほさと撫でた。
 うっとりする。大きな掌。この手だけで昇天出来る。
 カカシがイルカの肌を撫でると、うぅぐ、とイルカが呻いた。
「腹が減った…」
 色気のない呟きに苦笑した。
「飯にします。飯、飯、飯、鍋はどうなったかなあ…」
 カカシの手を払い、イルカはむっくりと体を起こした。布団に突っ伏して、「はーーーーー」と長く息を吐く。背中に一仕事終えました感が漂っている。のろのろとベッドから降りようと脚を伸ばして床に着く。
 その脚の間をどろりとした液体が伝うのが見えて、カカシはどきっとした。自分がイルカに注いだ物が垂れ落ちたのだ。見上げるとイルカも驚いた顔をしていて、すぐに泣き出しそうなほど赤くなった。
 泣き出す寸前の子供みたいな顔だ。
 カカシは咄嗟に腕をとり、イルカの背中を抱き寄せた。
 腕の中のイルカの肩を撫でてこめかみにキスを落とした。脚の間に抱き込んで慰めるように頬や目元にも口づける。
 赤くなった顔を見られるのを嫌がって逃れようとするのを押さえつけて、イルカの髪をくしゃくしゃに撫でながら、湿った睫を舐め、頬をすり寄せた。
 平然と振る舞おうとして綻び出た表情がたまらなかった。自分だけに許すと言ってくれた意味を生々しく突きつけられた気がした。
 手で触れるだけでは足りなくて、自然に唇で触れたくなる。
 顔中にしつこくキスを降らせていると、「もう!なんなんですか!」とイルカは肩を竦めて笑い声を立てた。怒った顔を作ろうとして失敗して笑み崩れている。
「あはは…、もう、ちょっとタンマ…」
 くすぐったげに竦められた首元に鼻面を突っ込んでカカシはイルカをベッドに押し倒した。鼻を摺り合わせて、イルカの濡れた股間に手を這わせようとした時、コツン、と窓硝子が鳴った。
 思わず二人して目を見合わせた。
 だめ押しのように「ピチチ」と招かれざる客は鳴き声を上げた。
「うそおーーーーーー…」
 イルカにのし掛かったまま、がっくりとカカシは項垂れた。
「あー…」
 イルカも呆けた声を上げた。
 渋々、本当に渋々とカカシは身を起こして窓を開けた。
 窓辺にいたのは見たことのない緑がかった灰色のずんぐりむっくりな小鳥だった。いつもカカシのところにくる式鳥はもっと色が濃くてスマートだ。
 飛ばした部署が違うのか。
 どこの子だろう?
 カカシの差し出した指に、式鳥はちょこんと飛び乗った。
 微量のチャクラを流してみたが反応しない。
「イルカ先生」
 振り返るとイルカはベッドに座って、腰にシーツを巻き付けていた。
 半ば呆然とした口調でカカシは言った。
「あなたに任務です」
 え、とイルカは驚いた顔をした。
 小鳥はすぐさまカカシの手から、イルカの膝へ飛び移った。イルカに触れた途端に式は反応して紙片に変わる。
「招集…」
 イルカの言葉にカカシは慌てた。
「今から!?すぐに!?」
「はあ、三十分後に作戦室に集合です」
 紙片から顔を上げたイルカはカカシを見つめて、それからすぐに立ち上がった。
「風呂、十分で浴びて、飯…装備が先か」
「だって、イルカ先生、初めてだったんでしょ…」
 踏み出した足が覚束ないのを見てカカシの方がおろおろしてしまう。
「大丈夫ですか、腰とか…」
「腰より股関節です!」
「俺が代わりに…」
「なこと出来るわけないでしょーが、写輪眼のカカシさん」
 きゅっと鼻を抓まれた。そりゃそうだ。中忍のイルカの代行が上忍のカカシでは部隊のバランスが崩れてしまう。そしてカカシが自分以外の任務に就いてしまった場合、カカシに振られるべき任務を受けられる上忍はほとんどいない。
 よたよたと寝室を出て行くイルカを追いかけてカカシも浴室に入る。
「ちょっと、なんでついて来るんですか!?」
「俺が洗います」
「はああっ!?」
「イルカ先生、出来ないでしょ。自分で指突っ込んで掻き出したり」
 カカシの言葉にイルカは真っ赤になった。
「で、出来ますよ!中忍ですから!」
 最中の心ないカカシの言葉への応酬らしいが、今はそんなこと頓着している場合ではない。
「いいから、時間ないよ」
 カカシに腰を抱えられてイルカは風呂場に押し込まれた。
 風呂に入れられた猫のようにイルカは鳴き喚き、以後に中で出すことを禁止すると主張したが、カカシは受け流して手早く洗浄作業をすませた。変に刺激しないように注意を払って中を洗い、傷つけていないことを確認すると後はイルカに任せて浴室を出た。
 寝室に戻り、衣服を身につけると台所に立った。
 圧力鍋の蓋をとると、中身はビーフストロガノフだった。
 はりきって作ったと言っていた。
 イルカ用に飯を盛っていると、イルカが慌ただしく浴室から出てきた。箪笥から新しい忍服を取り出して袖を通すと、ベストとポーチの中身をチェックして身につける。脚絆を巻き、いつものように額宛を目深に締めると、食卓の椅子に座った。その前へ、ビーフストロガノフの皿とスプーンを並べる。イルカは「いただきます」と呟くと、大急ぎで掻き込んだ。
 一分たらずで皿の中身は消えた。これでは味も分からないだろう。折角、作ったのに可哀相なことをした。
 ハムスターのように頬を膨らませて口をもぐもぐさせながらイルカは立ち上がり、ベストやポーチをもう一度、確認すると下足に脚を入れて、三和土に立った。ごくん、と無理矢理口の中の物を飲み込む。
「俺、ちゃんとしてますか?」
 段差で少し低い位置からカカシをきつく見上げてイルカは訊いた。
「大丈夫。いつものちゃんとしたイルカ先生です」
 指の背でイルカの上気した頬を撫でながら、腫れぼったい目蓋に口づける。カカシの言葉に安心したのか、イルカはほっと表情を緩めた。
 カカシは逆にちょっと心配になった。
 今日のうみの中忍は色っぽいなあ、とか思う奴がいたらどうしよう。
「具合が悪くなりそうだったら早めに言って下さい。こんな事でって恥ずかしいかも知れないけど、任務に穴を開けるより、失敗しないようにする方が大事ですから」
「はい」
 イルカの掌ががしりとカカシの頬を挟んだ。
 唇をくっつけるだけの豪快なキス。
 さっと身を離すと、イルカは忍の顔になって「行ってきます」と告げた。
「いってらっしゃい。御武運を」
 ひらひら手を振るカカシに、強い眼差しをくれてイルカはドアを出て行った。
 少し腰が重そうだ。
 帰ってきたら、美味い牛肉料理を食わせてやろう。
 カカシははんなり微笑みながら、ドアから身を乗り出し遠ざかってゆく背中を見送った。


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