「怒りんぼ先生」
イルカ先生はいつも怒ってばかりいる。
他の子達にはそんなに怒らないのにおればかり怒られているような気がする。
でも全然怒りもしないで無視する他の先生よりはずっと好きだ。
初めてイルカ先生に怒られた時のことをおれはずっと覚えていた。
イルカ先生は演習中にはぐれたおれのことを捜しに来てくれて、初めておれの顔を見て「ナルト」と名前を呼んでくれたんだ。そして手をつないでくれた。おれはそれが嬉しくて嬉しくて、またおれを見て名前を呼んでくれないかなあとばかり思っていた。でも先生は授業中も他の生徒には優しいのに、おれのことは叱ってばかりいる。
「よくできたな」とか「がんばったな」とか「すごいぞ」とか、他の奴らが言われているのを見ると、おれはすごく羨ましくて、おれも、おれも、おれも、って思う。でもおれはどうしてだかいつも上手くできなくてイルカ先生に呆れた顔ばかりさせてしまう。他のみんなも、なんだあいつって顔してそっぽを向いてしまう。そうするとおれはすごく悲しくなって辛くなって、ギュウって豆粒みたく小さく小さくなって自分は消えてしまうんじゃないかって苦しくなって、どうにかしなきゃ、なんでもいいからみんなに見てもらわなきゃって思う。それで必死でみんながこっちを向いてくれるようなことを考える。出席簿を教卓に貼り付けちゃったり、チョークの先に透明なボンドをつけて書けなくしたり。みんなは面白がるけど他の先生はそんなことをしても眉を顰めるか、曖昧に笑うか、冷たい声で「またおまえか」って言うだけだ。そうするとみんなも同じような冷たい顔になっておれなんかいないみたいに無視する。でもイルカ先生は大声で「ナルトー!!」って怒鳴って怒って追いかけてくるからクラスの奴らも面白がってケラケラ笑う。みんなが笑うとおれも楽しくなる。どんなに逃げても最後にはイルカ先生に捕まってしまうんだけど、先生はおれを職員室に呼び出してお説教して、そんで最後には「もうするなよ」って大きな手でおれの頭をわしわし撫でてくれる。おれはとても安心して、大丈夫、自分はちゃんとここにいて消えたりしないって思う。それで「もうしないってばよ」って先生に約束するんだ。おれは先生には嘘をつきたくないからいつも新しいイタズラを考えるのに四苦八苦する。
でも家に帰って考えると、本当はおれは先生に他の奴みたいに「よくできたな」って言ってにっこり笑って欲しかったんだって思う。そう思うといてもたってもいられなくなって学校でもらった巻物を引っ張り出して印の練習とかするんだけど、一人だと出来てるって思うのに学校では上手くいかない。おれは他の奴よりずっと修行してるんじゃないかって思うんだけど出来ないからくさくさしてまた新しいイタズラを考案するんだ。前のより派手にしなきゃ飽きられてしまうから結構大変だ。
大変だけど新しいイタズラを考え出して、怒ってるイルカ先生の顔を思い浮かべると明日アカデミーに行くのが楽しみになる。町中で知らない大人に汚い言葉を吐きかけられたりするともう家を一歩も出たくないような気持ちになるけど、家にいても一人だし、怒りんぼのイルカ先生に会いに行った方が全然いい。
イルカ先生はいつも怒っているけど、おれはイルカ先生が好きなんだ。