「愛憎ラーメン -Rord to ITIRAKU-」


 新入生の列の中にその子供を見つけた時、体の芯が冷たく固まったように感じた。
 春先の暖まりきらない風の中、舞い散る桜の花びらの中に並ぶ子供たちの一団の中の淡い金髪の頭。平和そのものの景色の中であどけない子供たちの期待に満ちた明るい顔が並ぶその中に、あの子供も混じっていた。
 もう、そんなに大きくなっていたのか。目の当たりにした姿に時間の流れを実感した。もう随分と経ってしまったのだ。すべてを失ったと思ったあの日から。
 あの子供の入学は里長の指示だった。アカデミーの職員達は何度も事前に会議をもちこの事態を検討した。入学は認める。無論、禁忌は守られねばならない。他の子供と同じように接すること。だが他の子供たちと同じ教室にあの子供を入れることに危惧を抱かない訳ではなかった。本当にあれは封じ込められているのか、何かの拍子に本性を現すようなことはないのか。
 自分の担当クラスにあの子供の名前を見つけてイルカは愕然とした。
「火影様の指示だ」
 君には酷だとは思うけれど、学年主任は言いづらそうにその事実を告げた。出来る限りのバックアップをするからと約束してくれた。
「誰かがやらなくてはならない事ですから」
 イルカはそうとだけ答えた。
 職員の誰もがあの子供をどう扱っていいか決めかねたまま入学式を迎えていた。いつもなら忙しい中にも浮き立った空気の漂う新学期の始まりが、その年はひどく重苦しいものに感じられた。
 新しいクラスの教室へ赴き、イルカはドアの前で軽く呼吸を整えた。いつものように子供たちに微笑むことが出来るように。ドアを開け、教室の中に踏み出す。好奇心を丸出しにした子供たちの顔、その中にあの子供の顔を見つけてイルカは一瞬身を強張らせる。夜の色と血の匂いが鼻先を掠める。その記憶を振り払ってイルカは教壇から生徒達に向かって微笑んだ。
「入学おめでとう」
 あれは、ただの子供だ。自分はアカデミーの教師だ。
 そう、自分に言い聞かせて。




続くみたいよ。。