名前はずっと前から知っていた。
誰もが知っていた。忌むべき名として。
うずまきナルト
その子供はいつも子供たちの群からはぐれてぽつんと一人でいた。
それは当然のことに思われたし、むしろあの子供が子供たちの中に混じっていること自体が間違いであるようにも思えた。あんなものがこんな子供たちの無邪気な声と笑顔の中に存在していること、それはとても非現実的な事に思われた。
大人達は皆、違和感を抱えている。それが子供たちにも伝搬して誰もあの子供には近づかない。
けれど一方で、あんな小さな体の中に本当にあんな禍々しいものが潜んでいるのだろうかと、明るい空色の瞳を見るたびに思った。
仲間外れにされて傷ついている小さな子供。
彼の人格はどこにあるのか。彼の心は人間なのか狐なのか。見極めることは出来なくて、忌まわしい記憶は目の前にぶら下がっていた。
幸い、アカデミーの授業は教科ごとに担当が違う。
イルカはクラス担任でありいくつかの授業を受け持っていたが、それ以外の授業は他の教員が見てくれる。皆で分担し合って、あの子供との一対一の関わりはなるべく薄くする、それが暗黙のうちに実行されていた。必要最低限の関わりしか持たないよう。イルカも他の教師と同様にそうするように心掛けていた。
平等に公正に、当たり障りなく。
だのに、いつも視界の隅をチラチラピヨピヨとヒヨコ色の頭が掠めていくのだ。
印の結び方を教えていると、教室の後ろの方からボム、と嫌な音がしてワー、キャーと子供たちの声。見ればどう間違え、どう組み違えればそんな事が起こるのだか分からないがあの子供の周囲にもうもうと埃が舞って周囲の子供達もろともゴミ屑まみれになっている。
基礎体力造りのための授業では投げたボールが職員室の窓に直撃する。
わざとなのか、偶然なのか、その度イルカはぎゅっと口を結んで怒鳴り声を飲み込んだ。
冷静に、平等に、関わらないように。
「ちゃんと的を見て投げろー」
生徒全員に向かって言う。
はーい、と返事をする子供達の群れの端っこでヒヨコ頭はつまらなそうにプイと横を向いた。
「あの子、態度悪すぎます!」
職員室で女性教員が我慢がならないというように声をあげた。
「言うことちっとも聞かないし、授業中も全然まじめに受けようとしないし!」
そうだねえ、と隣の同僚が答える。
「俺の授業の時も話聞かないんで困ってるよ。忍器の扱いなんか危なくって触らせられない」
他の授業でもそうなのか。イルカはひっそりと溜息を吐く。
「どうして三代目はアカデミーに入学させたりしたのかしら」
「やっぱり監視は必要だろうしさ」
「だったらどこかに閉じ込めておけばいいのに」
「先生」
思わずイルカは声をあげた。
「相手は子供ですから、」
歯切れが悪い言い方だと自分でも思った。言われた女性教員は眉を顰め、それでも「すいません」と小さく言った。
落ち込んだ。
本当は自分だってそう思っているくせに。
厄介なものに関わってしまったと、出来れば自分の目に付かない所へやってしまえたらいいと、そう思っているくせに。
本当はみんながそう思っている。
大人たちの気持ちを敏感に察知して子供達が言う。
「おまえなんかどっかいっちゃえ」