「火傷」
こんなのは遊びだとカカシは思う。
イルカの濡れた黒い髪を見ながら、浴衣の袷から覗く湿った肌を眺めながら脂下がっている。こん
なだらけきった自分は今だけのことだ。
窓枠に凭れ掛かったカカシのうなじを生ぬるい風がくすぐった。
昼と夜の狭間の生ぬるい時間。
イルカのアパートは木と土の壁でできていて、なんともいえない温かみがある。
こんな所にいる自分は本当じゃないとカカシは思う。
本当の自分はガサガサに乾いた冷たい場所で、身を切るような殺気の中でくないを振るっている。
命懸けで走っている。血の臭いに狂う獣のように自分自身を追い上げて、同じように獣じみた誰かと
切り結ぶ。写輪眼に映る世界はぞっとするほど鮮明で、真実だけをカカシに教える。
あれが本気というものだ。
天井にぶら下がった白熱灯の光を見上げてカカシは目を細めた。
それにくらべてこの間延びした時間はなんだろう。
まるで嘘みたいだ。
風呂から上がったばかりのイルカが上気した頬で穏やかに笑いかける。
カカシさん、お腹減ってないですか?夕飯食べました?
そんな言葉を暢気にくれる。
カカシは曖昧に頷いて畳の上に脚を投げ出している。にやにや鼻の下を伸ばしている。
真面目で勤勉だった自分をイルカが骨を抜かれた海月みたいにしてしまった。
こんなのは遊びだ。
こんな遊びにうつつをぬかして、いつか身を持ち崩す。
イルカとの火遊びは癖になるほど気持ちよくて、カカシは困り果てている。