初めて足を踏み入れたアクセサリー屋というものはピカピカしていてなんだか落ち着かなかった。
 並んだショーケースが高級感を漂わせていてその店構えだけでナルトは気後れしてしまう。サクラは気にした風もなくさっさと店に入ってゆく。やっぱりついてきてもらってよかった。
 店の中には他にも二三、カップルらしい男女がいて一緒に指輪やネックレスの並んだショーケースを眺めている。だいたい熱心に商品を見入っているのは女の子の方で男の方はそんな彼女の様子を少々身を引き気味に見ている。
 忍が身につける装身具は魔除けの意味合いが強いのだが、この店は一般人の客の方も来るらしく装飾的な物が多い。
「ねえねえ、これとか可愛いんじゃない?」
 サクラがナルトの袖を引っ張ってくる。覗き込んだショーケースには深い海のような色の布が敷き詰められ、その上に金や銀の指輪が並べられていた。
 サクラは急に生き生きして「あれが可愛い」「このデザインがいい」「こっちもいいなあ」とか一人で盛り上がっている。
 ナルトには全部同じに見える。
「いのはシカマルの誕生日にピアスあげたお返しに指輪貰ったんだよね」
 いいなあ、とサクラはケースの中のキラキラしたリングを見つめた。
 サクラちゃんも指輪欲しいのか、そう訊こうとしたナルトはサクラの次の科白に黙り込んでしまった。
「サスケ君にこんなの貰えたら嬉しくて死んじゃうかも…」
 そう呟いた横顔が切なそうで綺麗で、ナルトには掛ける言葉がない。代わりに心の中で「なにやってんだってばよ、ウスラトンカチ…」と思い浮かんだスカした顔に文句を言った。
「ちょっと、あんたが買うんでしょ。ちゃんと選びなさいよ」
「え、う、うん」
 ぼんやり突っ立っていたらサクラに叱られた。
 女の子ってなんか唐突だよな。
 そう思いつつナルトは適当に「これとか…」と指差した。途端、
「ダメよ、そんな安物!」
 きっぱり言い切られて驚いた。
「ダメなのかってば?」
 ナルトにとっては結構な値段だと思われる、なんといってもただの金属のわっかだ、それをあっさり安物と断定されてナルトは面食らった。
「ダメよ。こういうのは一目で分かっちゃうんだから。ちゃんとステディな相手がくれたものらしくそれなりの物買わなきゃ。予算、どれくらいなの?」
 どれくらいといわれても何も考えてない。
「んもー、じゃあ適当そうなの選んであげるから」
 そう言ってサクラは熱心に並んだ指輪をためつすがめつし始めた。
「ごめんってば」
 頭を掻きかきナルトはサクラの横から一緒にショーケースを覗き込んだ。
 眺めているうちにだんだん、商品は値段別に配置されているらしい事に気が付いた。そうして見てみると確かに自分が最初に指差したものはいかにも安っぽいかもしれない。
「候補としては、これと、これと、あっちの三連リングかなあ。定番だしね」
 サクラの選んだものを見てナルトはまた唸った。銀色の華奢なデザインの指輪や優美な曲線を描く金と銀の三連のリング、どれもイルカがするのはピンとこない。
「もうちょっと、なんてゆーか、」
「なによ?」
「なんか、イメージが…」
「イメージねえ、どうゆうのがいいのよ?」
「うーんと…」
 うーんと、うーんと、思案しながらナルトは目の前の数々の指輪を見渡した。これじゃない、あれじゃない、こんなんじゃない、イルカ先生にはもっと、こう…
「あ、あれがいいってばよ!」
 ナルトはケースの一番奥を指差した。
 シンプルで、ちょっと線の太い、それでいて洗練されたデザインのリング。安っぽいピカピカじゃなくてなんかマットな感じの銀色。
 きっとイルカの節高い無骨な手に似合う。
「あれって男物じゃ…って、馬鹿!ゼロが一個多いわよ!!」
「わ、ホントだってば!」
 高っ!呟いて二人してしみじみそれを眺めてしまった。どうりでカッコいいはずだ。ペアになっている隣の女物と合わせると…。
「ナルト、あれは私達には手の届かない大人の世界のものよ」
「…だってばよ」
 一度、良い物を見てしまうと他のがなんだか物足りないように思えてしまったのだが、それでも二人で頭をつき合わせて気に入ったのを選んだ。
 店員にサイズを聞かれてまた一悶着あったが、どうにか指輪を買うことが出来てナルトはホッとした。サクラは「女の人でそのサイズってありなの?」とか「ヒナタって意外と指太いのかしら?」と腑に落ちない顔をしていたが、ナルトがこれでいいと言い張ったので「サイズが違ったら一週間以内に店に取り替えてもらいなさいよ」とクドクド言いつつ帰っていった。ナルトはサクラに礼を言って、夕方に別れた。
 手の中の小さな箱をぎゅっと握る。
 なんだか嬉しくなった。
 一番奥にあったのほどではなかったけれどそれでも結構な買い物だった。
 けれどこの指輪をイルカに渡して指にはめてもらって、そしたらあのイルカにちょっかいをかけてる上忍も、陰でイルカについて不埒な噂をしている連中も、もう誰もイルカに近づいたりしないのだ。
 一刻も早くイルカに渡したくなってナルトは走ってイルカの家へ向かった。

次回、ナルトのプロポーズ?