「おやっさん、こいつのニンニク多めに入れちゃって」
キバ君の声が聞こえた。
「ちょっと、ヒナタが分かってないと思って…」
「ニンニクで酒の匂い消すんだよ。日向の親父さんに酒飲んだなんてバレたら殺されるぞ」
「殺されはしないだろうが、吊されるくらいはするかもしれんな」
いのちゃんとシノ君の声もした。
「つ、吊るしたりするかしら?娘よ?」
「いのはこいつん家の蔵、見たことないだろ?絶対、あそこに吊るす。日向の親父さんも吊るされて育ちましたって顔してるだろ」
「たしかに…」
「ヒナタのためにもなんとか誤魔化すしかねえんだよ」
私の目の前にことりとどんぶりが置かれた。湯気の立つ豚骨ラーメンだ。美味しそう。
「胡椒も振っとくか」
キバ君が手を伸ばしてカウンターの上の銀色の缶を取ると、私の前に置かれたラーメンにぱっぱっと胡椒をふった。赤丸が膝の上で「くしゅん」とくしゃみをした。
あれ?どうして赤丸は私の膝の上にいるのかしら?いつもキバ君にぴったりくっついているのに。
私は赤丸のぽわぽわした頭の毛を撫でた。小さな頭を掌に擦りつけてくる。可愛い。
「牛乳を飲むと匂いが消えるんだよ」
一楽のおじさんが言った。
「牛乳かー。まだ店開いてるかなあ」
キバ君は腰を浮かせてきょろきょろ暖簾の外を見回した。「ちょっと待ってな」と言っておじさんは中へ引っ込んだ。戻てくると手には白い液体が入ったコップを持っていた。
「ほら、ヒナタ、飲め」
キバ君がおじさんからコップを貰うと私にぐいぐい差し出してきた。牛乳だ。私はコップを受け取って飲んだ。
「だめだよ、子供が酒なんか飲んじゃあ」
「俺達は飲んでねえの。こいつらが馬鹿でさあ」
「誰が馬鹿よー!」
キバ君といのちゃんの騒がしい声が店内に響く。
「伸びるぞ」
シノ君は静かに言って箸で麺を手繰った。
いつものお店でいつものようにみんなでラーメンを食べているのが嬉しくて私は笑った。
ああー…とキバ君が弱り切ったように手で顔を覆った。
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