『ぐるぐる木の葉寿司』は里で唯一の回転寿司屋だ。
 里の外で話題になっていた回転寿司屋がついに木の葉の里にもオープンしたのである。
 円形のカウンターの上を皿にのった寿司が動いていくのを見て、「おおー!」とナルトが声を上げた。
「すごいってば!ホントに動いてるってばよ!これって忍術!?」
「いや、外の川に水車がついてたから水力で回ってるんだろう」
 サスケもサクラも物珍しそうにキョロキョロと店内を見回している。店の中には家族連れや若者の集団が何組かいた。繁盛しているようだ。
 四人はカウンターに並んで座った。
「カカシ先生、好きな物じゃんじゃん頼んじゃって!」
 ナルトが景気よく言う。
「………どうしちゃったの、キミら?」
 カカシは不審げに三人の部下達を窺った。また俺の素顔が見たいとか企んでるとか?
 しかし、三人は目の前を回る寿司に夢中のようだ。
「あ!プリン!プリンって寿司なのかってば!?」
「馬鹿ね。デザートも回ってるのよ。回転寿司って言ってもお寿司だけじゃないのよ」
 思わずプリンの皿を取ったナルトをサクラが窘める。回転寿司には一度取った皿は必ず食べること、という鉄則がある。
 ナルトの回転寿司デビューはプリンだ。
「なるほど。皿によって値段が決まっているんだな」
 サスケはまず状況を見極めることにしたようだ。値段表代わりに置いてある見本の皿と目の前を回っていく皿を見比べて分析した。
「食べ終わったらお皿の数を数えて値段を計算するのね」
 食事を終えた人の横で店員が皿をカウントしているのを見てサクラも納得する。
 カカシはとりあえず鉄火巻きを取った。まあ、無難に。奢りだとは言われたが三人の懐具合にはいささか不安がある。


 食事が進むに連れて三人がそわそわし出したのを横目で見ながらカカシは次のネタを考えた。カカシが伸ばした手の先にあるのが15両や20両の皿だと三人が明らかにほっとする。
 サクラが目で全員の皿をカウントしている横で金子係らしいナルトが財布をカウンターの下でこっそり覗いている。こらこら、サスケまで一緒に覗き込んでるんじゃない。
 いくら持ってるんだ、こいつら。カカシが把握している限り、下忍である三人はそれほど給金は貰っていない。
 大体、奢りだといって回転寿司を選ぶあたりからして間違っているぞ。もっときちっと値段の決まったセットメニューやコースの店を選ぶのが得策だろう。
 ま、多分、回転寿司というものに入ってみたかったんだろう。サクラは家族と来る機会もあるだろうが、ナルトやサスケは一人では入りにくいだろう。
 しかし、そんな心配げな顔で見守られると胃が縮んでしまう。
 結局、カカシは烏賊だのネギトロだの安い皿ばかりで満腹になったことにした。
「ごちそうさま」
 手を合わせてぺこりと頭を下げると三人が一気に緊張を解くのが分かった。
 どうやら金子は足りたようだ。
 レジで三人が勘定を済ませるのを見守り、カカシもホッとした。
「なんか、食った気しないってばよ」
 店を出て、ナルトが腹をさすりながらぼやいた。
「あんたがなんっにも考えずにいきなり大トロとか取っちゃうからでしょー!!」
 サクラが怒鳴る。
「だって目の前を流れていくの見ると美味しそうで…」
「ウスラトンカチ」
 なんだとー!とまた始まりそうになったのを、まあ、まあ、と制してカカシは三人ににこりと笑いかけた。
「美味かったよ。ごちそうさま」
 カカシを見上げる三人の顔がぱっと誇らしげに輝く。
「どういたしましてーだってばよ」
 すぐナルトが調子に乗る。
「もう遅いからお前達、サクラを送って行けよ」
「はーい」
「ああ」
 珍しく素直な返事を返した少年二人に伴われて、サクラはひらひら手を振りながら夜の通りを帰っていった。ナルトは隣で何かとサクラに話しかけて、サスケは三歩後ろを歩く。
 夜風に桜色の長い髪がなびいて綺麗だ。
 なんだかハラハラして十分に食べられなかった。高度な心理戦を要求された後のようだ。夜中に腹が空くかもしれない。だが、カカシは鳩尾のあたりがぽうっと暖かいのを感じた。
 そうか、誕生日か。
 こういう日もありなのかもしれない。
 自然と足取りが軽くなり、カカシはポケットに手を突っ込んで星空を見上げながら自分の住む宿舎に向かった。この季節にいつも見える変光星が映画館の丸屋根の上に見える。
 寒波の到来を予感させる風の匂いがする。
 明日、イルカに会いに行こう。あいつらがね、こんな事してくれたんですよって話そう。きっと嬉しそうに聞いてくれるだろう。


 宿舎の前までやって来た時、機嫌良く歩いていたカカシの目に、表の植え込みに蹲る黒い物が映った。ぴょこんと跳ね上がった黒いしっぽがまず目に入った。
 それから黒々とした両の瞳が自分を見上げているのが分かった。その下に一文字の古傷。
 鼻の上の一文字の傷に皺を寄せて、彼はじんわりと笑った。




ほのぼの七班。




カカシ編5