里に入ってきた迷い猫は大概が西の森で見つかる。
「猫が里に入ってくるルートは無数にありますが、依頼人の住居の位置から考えると南西方面から侵入したと考えるのが自然です。しかし、こちらから入ってくるとまず、青物市場のトラジの縄張りにぶち当たります。更に北に逃れれば三つ星の銀、南には長毛種のフランシーヌの縄張りです。東にはこれといった強い猫はいませんが犬塚家の訓練場がありますから猫は近づきません。そうやって強い猫の縄張りから追われて追われてしているうちに、迷い猫は自然と西の森に集まることになります」
受付の机に里の猫分布図を広げてエビス特別上忍が説明する。
「すごい情報収集力ですね」
思わず呟いたヤマトにエビスはフッと薄く笑って黒眼鏡を人差し指で押し上げた。
「西町のたばこ屋のおハナばあさんの情報です。蛇の道は蛇ですよ」
エビスの言葉にヤマトは赤い看板を出した店先でいつも猫を抱いて置物のように座っているばあさんを思い出した。
「猫の事ならおハナさんに聞けば確実ですからね」
鼻傷のスマイリーフェイス−−−イルカという名らしい−−−も頷いた。
「それで、猫がいないというのは?」
イルカの問いに下忍の少年少女達は顔を見合わせあって、それから次々と口を開いた。
「いないんだ、コレ。西の森の猫が一匹もいなくなってるんだ、コレ」
「私達、朝から迷い猫探しの任務に行ったのよ。おハナお婆さんに話を聞いてから西の森に行ったの」
「西の森には桜の木が多いから、今の季節なら花見客が置いていった残り物を目当てに猫が集まってるはずだっておハナお婆さんは言ったんだ」
木の葉丸、モエギ、ウドンが順番に今朝の経緯を語った。
「ところが今日は見あたらないのです。目標の猫も、普段からそこいら辺にいる猫達も」
エビスが如何にも不審であるという顔つきで言う。
「西の森から猫が逃げ出すような事って何かあったか?術を使った演習を行ったとか?」
「いや、そんな話は聞いてないぞ。さっきウドンが言ったとおり、今は花見客が多いからそんな事をするはずがない」
イルカ以外の受付係達も集まってきて、降って湧いた不審事を何事かと思案する。スマイリーフェイスなどと呼ばれているがこうしていると普通の中忍達だな、とヤマトは思った。
「猫攫い?が出たとか?」
「なんだ、そりゃ」
おかしな話である。
受付所にいた皆が額をつき合わせてしきりに首を捻っていると、受付所に任務を終えた中忍の小隊がどやどやと入ってきた。任務後の開放感からか仲間同士、大きな声で話をしている。
「極北巡回部隊の帰還者ども、久しぶりの桜の花に感激して大騒ぎだったらしい」
「連中、下手物だからなあ。あいつらが通った後は猫の子一匹いねえって」
誰かが言ってゲラゲラ笑う。
その言葉に受付にいた面々は中忍小隊達を振り向いた。
「え?猫の子一匹?」
イルカが小さく聞き返す。小隊の隊員達は何が面白いのか笑って答えた。
「そうそう、連中、西の森で花見をして、その辺にいる猫をとっつかまえて、ビールの肴に焚き火で焼いて食っちまったんだって」
ひでえよなあ、と言いながら中忍達はまた笑った。
「−−−食った?」
エビス特別上忍の呆然とした声が受付所の高い天井に響いた。。