「合コンですか?」
本部棟の渡り廊下を歩いているところで声を掛けられた。声を掛けてきたのはさっきまで同じ研修授業を受けていたくのいちの先輩だ。
「新しく中忍になった子の顔見せみたいなもんよ。同じ任務に就くこともあるだろうし歳の近い者同士仲良くしとこうってこと」
「はあ。それで合コンなんですか?」
自分より二期上の先輩は、ふふ、と笑った。
「結構、男の子のグレード高いわよ」
先輩の華やいだ声は耳にくすぐったくて、私は少しどぎまぎした。
中忍に昇格するまでは同期の下忍くらいとしか連んでいなかったけれど、中忍試験に合格してからは研修や特別演習などで中忍の先輩達と行動を共にする機会も増えていた。中忍になると小隊の編成は変則的なものになる。基本は下忍時代のスリーマンセルだけれど、中忍のみのスリーマンセルや医療忍を加えたフォーマンセルを組むこともあるし、暗号解読などの特殊技能を持った特別上忍と組むこともある。自分と二、三歳しか違わないはずなのに中忍の先輩達はとても大人っぽい。
合コンなんてテレビのドラマの中でしか観たことがなかったけど興味はあったんだ。
「山中さんも知り合いの女の子に声掛けておいてくれない?」
「いいですよ。私の同期の子っていったら…」
自分の友人達を思い浮かべる。彼女達は合コンなんて誘われたことないだろう。
しょうがない。誘ってやるか。
一歩リードしたようで気分がいい。ひっひっひっと内心笑っていると、先輩が付け足した。
「あ、春野サクラは誘わないでね」
え、と先輩の顔を見上げると先輩はカールした睫をしばたたかせて声を潜めた。
「あの子、評判悪いから」
サクラが綱手様に弟子入りしたと聞いた時は本当に驚いた。
サスケ君があんな事になって、ナルトも大怪我をして入院して七班はどうなるのかとみんな心配していたけれど、まさかサクラが綱手様の弟子になるとは誰も思っていなかった。というか、誰も火影である綱手様が直弟子をとるなんて思っていなかった。
その話を聞いた時、真っ先に私はサクラに問い質した。
「あんた、それちゃんとカカシ先生に相談して決めたんでしょうね?!」
「え?」
サクラは目を丸くして私を見返した。
「あんたはまだカカシ先生の直属の部下なんだから、上官に相談もなしに勝手に他の人に師事していいわけないでしょ!」
私の言葉で初めてサクラは事態を飲み込んだらしい。
「あ…わたし…」
「子供じゃないんだから、そういう事はちゃんとしなさいよ!」
既に綱手様に直談判で弟子にして貰うことを取り付けてきたというサクラに私は頭を抱えた。上官が部下に戦力外通知を出すことはあってもその逆なんて、余程のことがないとあり得ない。そんな事になったら上官の経歴に傷がつくだろう。相手が火影である綱手様ならばカカシ先生は飲み込まざるを得ないだろうが良い気持ちはしないに決まっている。
ナルトは怪我が治ったら自来也様と修行の旅に出ることが決まっている。その辺は前の中忍試験中からの経緯があるらしくてカカシ先生も了承しているということだが、サクラの処遇はまだ決まっていない。サスケ君もナルトもいなくなれば実質、七班は存続しないということになるかもしれないけれど、それを決めるのは班長であるカカシ先生だ。
「あんたはどうしていつも思い込みだけで突っ走るのかしら…」
−−−相手の気持ちも考えずに。
私はひっそりと心の中で呟いた。
「私、カカシ先生と話してくる!」
サクラは慌てて本部棟の上忍待機所へ駆けていった。
順番が逆だっつーの。
夕方、山中花店の店先に現れたサクラはほっとした表情をしていた。
「カカシ先生は私の好きにしていいって」
綱手様の許でならいいくのいちになれるだろうって言ってくれたのよ、とサクラは泣きはらした目蓋を赤く染めて言った。
私は腕を組んで深々と溜息をついた。
「カカシ先生が物わかり良くて助かったわよね」
素直に良かったねとは言えなかった。サクラはうん、と頷いて微笑んだ。
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