手甲をはずし、今日はしますよ、と宣言してからカカシはイルカを卓袱台の向こうへ転がした。最初は躊躇っていたイルカも腹を括ったのか、じゃあ寝室へ移動しましょう、と起きあがろうとするのを制してのし掛かった。
立ち上がって移動してベッドの上に上ったら、もうイルカは気持ちを切り替えて、カカシの相手をする事に専念するだろう。情熱的に口づけてくれるだろう。
でも今日は、このままどこか不安定さを抱えたままのイルカと交わりたい。つけ入る隙だらけのこの人に色々したい。
カカシのそういう思惑が分かるのか、イルカは随分、抵抗した。するのはいいから寝室へ行きましょうと頑張って、背中でずり上がって襖に手を掛けた。
半端に開いた襖の間から、ベッドのある暗い寝室へ上半身だけ入り込んだところで跨るようにカカシの腿に敷かれた。
敷居が背中に当たって痛いだろうと、引き戻そうとするのだけれどイルカは襖に手を突っ張って抵抗する。丁度、腰が襖に挟まって、そこから下半身が明るい居間に伸びている状態だ。仕方がないから座布団を半分に折って腰の下に敷いてやると、
「うわ、先生、エロ過ぎ」
カカシの目の前には電球の光に照らされてイルカの下半身が、襖の向こうの暗がりには電気の光の帯にイルカの腹から胸、顔が浮かんでいる。
「これでいきましょう。いい感じです」
いそいそとイルカの服を剥ぎはじめるカカシの下で「やめんか!」とイルカが怒声を張り上げたがカカシは聞く耳持たなかった。
今日はするつもりで帰ってきたし、イルカは美味しそうだし、早く気持ちよくなりたい。
「イルカ先生、今年でいくつ?」
襖のこちら側で持ち上げたイルカの膝の裏を舐めながらカカシは尋ねた。
「23」
襖の向こうで手の甲で口を塞ぎ、声を噛んだイルカが絞り出すように答えた。
「やっぱり若いね」
腰の下に座布団を敷いたせいで突き出すような形になったイルカの性器を指先で弄ると、先端からとろりと液が流れた。高く掲げさせられた膝が震えて襖にあたる。
服をすべて脱がせて、大きく脚を開かせると襖の間でイルカは進退窮まった。脚が引っかかって上には行けず、脚の間にはカカシが陣取っている。
「も、そっちでいいですから」
寝室に行くことは諦めたと言うイルカを、いいから、いいからと宥めてカカシは明るい居間でイルカの下半身を嬲った。
「なんか、これ、変ですって」
暗がりで顔を隠すように横を向いたイルカが言う。せめて襖を開け放とうと手を伸ばすのだが、下半身をがっちり押さえられたこの体勢ではなかなか難しい。
「こっちの部屋だけ横から見たらなんだろうと思うでしょうね」
自分は上着も脱がないままでカカシがイルカの脚の間に顔を埋めた。カカシの舌先でイルカの性器がびくびく震える。襖から伸びた裸の下半身。それを貪っている一人の男。まるで自分のためだけに誂えられ、差し出されたような体。
はっ、はっ、と切迫した息が襖の向こうから聞こえる。イルカだって一週間ぶりの情事だ。
外見はカカシもイルカと大差ない。カカシは若く見られがちだし、イルカは逆に老けて見られる。だけど年相応に、イルカの体は堪え性がない。今、カカシの口の中に出し入れされている部分や、他の色んな部分が刺激に慣れていない。分別くさい振る舞いをしようとしても理性より気持ちや体が先に落ちてくる。
「もう−−−」
暗がりから響いた声はか細くて、イルカが極限まで我慢しているのが分かる。
「イキそう?」
イルカが頷くのに合わせて畳の上で黒い髪がぱさぱさと音をたてた。
「こっち側に、」
来てください、とイルカが腕を伸ばす。カカシはイルカのものから口を離すと、腹でそれを擦り上げるようにしてイルカの体に乗り上げた。両肩が襖にあたってごとん、と音がした。ん、とカカシの下で呻く声が上がって、イルカの手が肩にしがみついてくる。服地に擦られた感触に我慢できず震えながらイルカはカカシの黒いアンダーを汚した。
「汚されちゃった」
確信犯の笑みで見下ろすと、イルカの黒い目が怒りと羞恥に潤んで見上げてきた。心なしか襖のこちら側の方が室温が低いようだ。ひんやりした空気にイルカの火照った肌から熱が立ち上っているのが分かる。
「なんか今日のカカシさん、オヤジ臭いですよ」
悔しまぎれにイルカが言う。
「イルカ先生がぼんやりしてるからですよ」
カカシの言葉にまたイルカの視線が遠くへ逸れそうになるのを遮り、カカシはイルカの唇を自分の口で塞いだ。
自分の腹の上でカカシは襖に手を掛けると両側に開け放った。
邪魔だからね、と言ってからイルカの脚を自分の肩の上へ、膝裏を引っ掛けるように持ち上げた。ここでこのままするんですか?と尋ねると、このままです、と答える。
「座布団、あった方が楽でしょう?」
そういう事を言っているんじゃない。
こんな変な所で変なことしやがって。
さっき、「イチャパラみたい」と呟いたのを聞き逃しちゃいないぞ。
だけどもうイルカは抵抗する気にもならなかったから、せめて服を脱いでくださいと言ったら「たくさん汚してください」とカカシはまたオヤジみたいな事を言った。
悔しいので全然平気な顔をしていようと思ったのに、色々触られたり掻き回されたりしているうちに必死になってカカシの首にしがみついてしまっていた。
体の一番奥に、カカシの一番熱い部分が潜り込んできて揺すり上げられて、「カカシさん」「カカシさん」と聞いたこともないような甘ったるい声で誰かが呼んでいる声が耳に流れ込んできた。
両側に押しのけられた襖が電気の光を遮って影を作っていた。見るともなしに見ていると片目にぽたりと水滴が落ちてきた。ぼやけた視界に自分と同じように必死な男の顔が見えた。
「しみた?ごめんね」
べろりと汗の落ちた方の眼を舐められた。
俺達はこちら側だ。
白い土塀のこちら側。
誰が選んだのか、誰に選ばれたのか。俺達はこちら側だ。
埒もなく、そんな事が頭を回り続けた。