初めて会った時、イルカは血の匂いをさせていた。
七班の三名をつれて初めて受付へ行った時だ。
「アカデミーでこいつらの担任をしていました、うみのイルカです」
そう言った健全そうな笑顔にそぐわない血と消毒薬、真新しい包帯と化膿止めの匂いがした。
ナルトが飼い主を見つけた子犬みたいに眼を輝かせて、でもそうっとイルカを気遣って彼の袖口を握ったのが印象的だった。
初々しい恋人のような仕草で、ドキッとさせられた。
三代目以外に九尾狐を封じられた子供が懐いている相手がいるなど考えられなかったのでひどく意外だった。
イルカの黒いアンダーの首元からは白い包帯が覗いていた。だがイルカは怪我をしていることなど感じさせない快活な笑い声をたて、無造作にナルトの頭をくしゃくしゃにした。屈み込んでサクラとサスケの顔を順番に覗き込み、「下忍昇格おめでとう」と声を掛けた。二人がはにかんだ笑みを浮かべるのをみて、これは大変なものを預かってしまったとカカシは実感したのだ。
小さなその体の中にナイーブな魂を包んだ生き物。
これらの者達を、人も騙せば殺しもする、そんな強靱な忍びという生き物に変えてゆかねばならない。
目の前に立つ、血の匂いをさせながら平然と笑っている男のように。自分のように。
イルカの服の裾を握ったナルトの小さな手を見ていて思いだしたのは、十年以上前に死んだ友人の手だった。短くて丸い爪、くないや手裏剣で擦れ黒ずんだ指先、そんなものがよく似ていた。
だぶついた袖から小さな手が覗いていた。
動きを妨げないくらい、けれど少しだけ大きな服。彼の両親が「大きくなっても着られるように」と選んだサイズだったろう。
そんな思いを残酷に断ち切って、記憶の中の彼は成長することなく時を止めた。
カカシだけが大人になった。そして今は小さな部下の旋毛を見下ろしている。
そうか。俺はもう大人になったのか。
木の葉の額宛を授けられた時に自分は一人前になったと覚悟を決めたはずなのに、唐突にカカシはそんな風に感じた。
俺はもう一人の人間として、人を恋うことができる。
何故その時、そんなことを思ったのかよく分からない。
その時から血の匂いをさせながら、生き生きとした表情で子供達を庇護する男のことばかり考えるようになったのはどうしてなのか分からない。