京極堂

けだものの恋

一目で惹かれあったに違いない。群をはぐれた獣が初めて同種族の獣に出会ったように。彼らは発情し肉体を交わした。それは恋とは呼ばないのかもしれない。情愛などなかったはずだ。ただ、二言三言、言葉を交わしただけで情の生まれるはずもない。純粋な生殖行…

このささやかな死

「うふふ」「遊びましょう」  少女の手がそっと私の手に触れた。ひんやりと冷たく、しかしひどく生々しい。はじかれるように私は顔を上げた。こめかみを幾筋もの汗が伝い落ちた。汗ばんだ自分の手に重ねられた、白い、柔らかな肉。少女…

黄泉路

夕刻のバスの中で私は窓の外を眺めている。他に乗客は誰もいない。昼と夜の狭間の薄黄色い光が外の世界を照らしている。それとは対照的に車内は暗く運転手も人型の影に過ぎない。もう少ししたら通路の天井に蛍光灯が灯り寂しい光で車内を満たすのだろう。単調…

夢路

   懐かしい風の匂いがしていますあの扉から風が入ってくるのでしょう階段の踊り場に黄金色の日差しが差し込んでいます柔らかな光あの扉の外からそこでは空気の澱むことはないのでしょう乾いた風がずっと吹いています&nb…