久遠寺涼子

赤い道

  「あの子をそこへ沈めて、あなたは此処へ帰っていらっしゃい」 赤い道を辿れば呪詛の歌が聞こえてくる。其処にあるのは食い散らかされた私の残骸だ。あなたは私の歌を聴き、私を見つけてくれるだろう。沈められた遠い記憶…

死んで狐の皮衣

彼らが私を愛さないのは私が彼らを嫌っているからだ。意識にはのぼらなくとも、不思議とそういう匂いは肌で分かる。私の嫌悪が彼らに感染するのだろう。私に居場所がないのは私が求めようとしないからだ。求めない者には何も与えられはしない。そして求めてば…

ヘンゼル

父さんと母さんがこっそり相談しています。もう食べる物がないからあの子達を森へ捨ててしまおうって。私達はドアの陰でその声を聞いていました。お兄ちゃんは泣き出してしまいました。私はお兄ちゃんはどうしてそんなにたくさん涙が出るのかしらと不思議でし…

けだものの恋

一目で惹かれあったに違いない。群をはぐれた獣が初めて同種族の獣に出会ったように。彼らは発情し肉体を交わした。それは恋とは呼ばないのかもしれない。情愛などなかったはずだ。ただ、二言三言、言葉を交わしただけで情の生まれるはずもない。純粋な生殖行…

このささやかな死

「うふふ」「遊びましょう」  少女の手がそっと私の手に触れた。ひんやりと冷たく、しかしひどく生々しい。はじかれるように私は顔を上げた。こめかみを幾筋もの汗が伝い落ちた。汗ばんだ自分の手に重ねられた、白い、柔らかな肉。少女…

夢路

   懐かしい風の匂いがしていますあの扉から風が入ってくるのでしょう階段の踊り場に黄金色の日差しが差し込んでいます柔らかな光あの扉の外からそこでは空気の澱むことはないのでしょう乾いた風がずっと吹いています&nb…